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2024/09/23
 邂逅

 捻りあげようと腕を掴んだ手を思いがけない力で振り払われては、形振り構っていられなかった。その手を厳重に覆った手袋ごと自身の鮮血に塗れて赤くぬめる手が、思い詰めた必死さでもって握りしめるナイフを、石墨は掴んだ。握りこんだ指に痛みが走る。 
 石墨の暴挙に驚いたのだろうか。細い細い月明かりの元、相手が眼を見開いた、ような気がした。夜目の利かない人間の視界ではそれは酷く曖昧にしか捉えられなかったが、それでも僅かな反応の真意に賭けない理由にはならない。
「放してください」
 互いの力が拮抗して動きが止まる。冷たく白く光を跳ね返す金属に押しつけた掌の、その僅かな隙間を温い感触が伝う。
「……放して、」
 ぽたりと一滴、赤黒い雫が足下に落ちるのと同時に、怯えたように強張る指から力が抜けた。何故か酷く頼りなげな気のする手から抜き取った白銀の刃を、石墨は出来るだけ遠くへと放る。その軌跡をぼんやりと視線だけで追った相手は、辺りに金属の澄んだ音が響くのを聞いてから、ぽつりと、すみません、と漏らした。
「怪我を、させてしまって」
 今の今まで己の命を絶とうとしていた者には随分と似つかわしくない、静かな言葉だった。

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 瓦斯灯の光もすべての闇を駆逐するには至らない虫食いの夜。古ぼけた蝋燭の明かりの絶えた暗がりを見通すことはまだ出来ないけれど、それでも青い夜は昔に見た景色と比べると随分とクリアになった気がした。細かなブロックでも寄せ集めたような町に遠く屹立する尖塔には、あと一刻もすれば朝日が指すのだろう。自分たちにはもう、それを見る術はないが。

 荷は無事に届いただろうか。おそらく荷の中身も署名も確認することになっただろう彼は、どんな顔をしただろう。あの町で出会ったシスターにもいずれ噂は届くのだろうか。けれど自分には直接それを確かめる術はない。
 彼らとは真っ向から対立する身となったというのに、焦りの一つもないのは、人でないものを殺しすぎたせいだろうか、それとも夜種の性とは無縁にすら見える優しい人が隣にいるからか。
 薄情かなぁ、とは胸のうちだけで呟いて、緩く握っていた手に力をこめた。だって、自分の天秤は、彼ら何人分を片側の皿に積み上げても、この人一人には釣り合わなかったのだ。

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