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2024/09/23

36人を手打ちにしてきたという主人を持つこの男は、一体そのうちの何人の人間を斬ってきたのだろうか。
 審神者として政府の意向を実現するためだけに居る私は、刀剣たちのことを深く知らない。知らないでいいと思っていた。刀剣として生まれた以上、戰場に出るのは必至であり、戦っていればいつかは壊れる。そしてどれだけ知ったところで、現世に生まれ刀を振るったこともない私は本の主以上に慕われることなどないのだから。そう思っていた。
 だからというわけではないのだが、私は目の前で、男の肉付きの良い割に繊細な造りの手が牛蒡を笹がきに削いでゆくのをただぼうと眺めていた。戰場では采配するしか能のない私だが、雑事ならばと台所へ来てみたものの、火を熾すこと一つでも勝手が違い、結局私の手に負えることなど殆ど無く、あえなくここで置物になっているという次第だ。
 牛蒡は男の手がしゅっと動く度に一筋一筋水を張った盥の中へ落ちてゆく。灰汁を抜くのはこの時代でも同じなのだな、と何となく思った。
 男が片手で重たげな盥を持ち上げ、縁を抑えながら水を流す。薄茶に濁った水が流れてゆく。
 そして男はもう一度、傍らの水瓶の中から水をすくって、盥に流し込んだ。いったい何度やるのだろうとぼんやり思っていると、男がふと口を開いた。
「刀が料理をするのは、奇妙かな?」
 そうでもない、とは思った。元は刀といえ文化人然としたこの男が料理をするのは興味深くあったが、人の姿を取る以上人と同じ仕事をすることに違和感は感じなかった。
 ただ己の刀身で人を斬る代わりに、包丁を握り食物を斬るというその行為を、少しだけ奇妙だと思った。

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2015/01/20
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