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2024/09/23

 葬列は静かだった。
 喪というのは大抵地味な物だと知ってはいたけれど、その葬祭はかつて王の参謀を務めたという人の物にしてはおそろしく質素で、けれど実直に技を極め、影のように生きた人には相応しい気もした。

 一歩先を行く父の背を、母に手を引かれて追いながら、葬列に加わる。
 鎮魂の歌を歌う、あの金の髪の女の人は領主の妹姫だろうか。綺麗だけれど悲しい声だ。
 ふと気付くと、母の手が小さく震えていた。盛りを過ぎても美しい母の肩を、慰めるように父が引き寄せた。黒のドレスにぽつりと雫が落ちた。
 葬列は静かに進んでゆく。彼はそっと母の手を離した。母だけではなく、父も悲しいだろうと思ったからだ。

 進む人の波をかき分けて、彼は列の最前へ出る。そこにあるのは飛天の神の祭壇と、その前に置かれた白い棺だ。固く閉ざされた蓋の上には、花の山が出来ている。

 君も花を、声に振り仰ぐと、明るい金髪に優しげな面立ちの男性が立っていた。飛天の領主だ。今はもう王位はないから領主様と呼ぶことになっているが、英雄である彼を慕って、未だに王の尊称を使う人も多い。
 彼が見上げていると、見事な赤い翼のその人は、ふと表情を緩めた。
「飛天の教会ではね、花を積んで最後の贈り物にするんだよ」
 だから君も、促されて、彼は棺の前に進み出た。
 その間にも花は雪のようにつもってゆく。

 これからこの棺はとても高い温度の炎で焼かれるのだ。
 土ではなく、空に還れるように。

 彼は母に渡された花束を見下ろす。
 ――最後の贈り物。
「……嘘つき」
 呟いた言葉は、糾弾だというのに泣き出しそうな声になった。
「また、練習付き合ってくれるって、爺さん言ったじゃないか」
 オレはまだ爺さんのこと負かしてもいなかったのに。
 何でいなくなっちゃうんだ、なあ、爺さん。

 投げた花束は、ゆっくりと回転しながら弧を描いて、花山の上にとさりと落ちた。
■■■

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2007/11/22
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