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2024/09/23

「私ね、ゼオが貴方みたいな人をギルドに入れたのが、不思議だったの。
 でも解ったわ。彼は見誤ったのね。貴方が求めてる物を」

「貴方が求めてるのは、迷宮じゃない。
 でも彼が求めているのと同じくらいの強さで、貴方も求めてるんでしょう?」


「死に場所を」


 その通りだった。
 詰るでも憐れむでもなく、淡々と事実を指摘する声音の魔女の言は限りなく正鵠を射ていて、反駁の余地がない。
――ただ、コーディは思う。少しだけ訂正するならば、欲しかったのは死に場所ではなく、死ぬまで過ごす場所だった。
 この呪いを紡ぐ喉を使い続ける限り、自分の命が長くはないだろう事は解っていた。勝手に呪いを紡ぐ己の喉も、削られてゆく命脈も、昔は酷く戦いたり足掻いたりしたこともあったような気がするが、随分前から恐ろしいとは思わなくなっていた。
 それは多分、受け容れてしまったから、なのだと思う。
 何かに抵抗するためにはエネルギーが要る。認めてやるものかと、反抗するだけのエネルギーが。何かに逆らおうというのだから、当然抵抗するというのは苦しい。だから、抵抗してやろうという意思を保ち続けるための気概もいる。
 コーディも多分、最初はそうだったのだ。けれどどうあっても動かない現状にいつの間にか疲弊して――大事なその二つを擦り切らせてしまった。そうして抵抗を止めてみれば、後は楽だった。
 ……死にたくなったわけではない。けれど、どうあっても人はそのうち死ぬのだ。コーディは己の業の所為で死に至る。それはもはや決まり切ったことで、あまりに当たり前すぎて、――だから諦めた。諦めればひどく簡単に笑えるようになったのは、皮肉だったかも知れない。
 だが、そんな諦観ばかりを抱えた精神にも少しの欲はあったらしい。都合のいい場所を探して選んだここが、予想以上に居心地が良く、――だから、もう少しだけ、まだ役に立てるから、そんな風にして引き際を誤った。
 否、誤っただけなら良かったのだ。
 たとえ彼等の目の前で自分が命を落とすことになっても、このギルドは進むのを止めないだろうし、コーディ自身は彼等の悲しみなんて見なくて済む。

 けれどコーディはどういうわけか、こうして生きている。
 否、理由は解っているのだ。
 巡らせた視線の先、ベッドサイドのテーブルの上には砕けた鈴が乗っている。――多分、あれが傷をいくらか吸ってくれたのだろう。敵が思ったよりも弱っていたのも良かった。それから、今ベッドサイドに俯いて座っている彼も、尽力してくれたのだろう。
 そうして生かされたのだ。死ぬ気はなかったが、生き続ける気もなかった自分が。

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2010/06/20
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