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2024/09/23
 Raven

 金姫達のアーモロード行き前夜を書いたので、一方黒プリの方の逃亡前夜……当夜?について。

 うちの子紹介に出てなくて、多分これっきりしかでてこないんじゃないかと思うキャラが居るので注意。
 正直プリ/ショの人が書きたかっただけ。間違いなく介錯持ち。
 女性向けを思わせる発言があるので一応追記に畳んでおきます。

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「お前は本当に欲がないね」
 呆れたように言って、黒髪の男は我が物顔で露天の卓に頬杖をつく。夜も更けたこの時刻、既に冷える季節だというのに、外套も羽織らずにするすると庭から忍び込んできた男は、そのくせ腰には大層業物の曲刀を佩いており、これで知った顔でなければ賊の類と思うところだ。
「私には、そこまでして王位を欲しがる理由がわからん」
 人払いするまでもなく、人の数そのものを減らしたこの一角に、聞き耳を立てる者も居ないだろう。声を低めるでもなくミュルメクスが応じると、男はくつりと笑った。
「そこまで? そうかな。僕は欲しいものに見合った努力をしているだけだよ」
 口端に笑みを浮かべたまま、男は竪琴弾きのような滑らかな声音で応える。
「物好きなのは知っている。それが解らんと言っているのだ」
「解らない? お前だって支配する心地良さを知らないわけでもないだろうに。……ああ、それともだからかい?」
 声音こそ差異があるものの、纏う色彩はミュルメクス自身のそれとほぼ同じ、容貌でさえ端々に類似が見られるが、浮かべる表情は大きく違う。
 含みのある言い方に、ミュルメクスは僅かに視線を上げて、男を――腹違いの兄を見遣った。男は口元に笑みを貼り付けたまま続ける。
「陛下はこのところ――いや、あの時からずっとあんな調子だからね。どうして、玉座というのは、威光と恍惚と、怨嗟の声に溢れた場所らしい。――狂ってしまうのが怖いのかい」
「……侮辱だぞ、兄上」
 低く応じれば、怖い顔をするんじゃないよ、と男は声を上げて笑う。
「からかいたくなるのさ、お前は可愛い弟だから。――けれど、思わないか?今この国を統べているのは、実質的には宰相殿だ。だが、この豊潤に育った国を、宰相殿にくれてやるのはいかにも勿体ないだろう」
 言いながら、音もなく立ち上がった男は、そのまま庭と部屋を繋ぐ短い階段を上る。真っ直ぐに近付いてきた男は近くまでやってくると、一人がけのソファに腰掛けたミュルメクスに視線を合わせるように、身を屈めた。囁きの届く距離で、しかしはっきりと男は言う。
「この国は我等王族のものだ。そうは思わないか、ミュルメクス」
 歌うように口にした男の手が、きし、とソファを軋ませ、ミュルメクスは僅かに眉を顰めた。
「僕とお前とで王政を敷き直さないか」
 危うい誘いと共に特定の意図を以て伸ばされた手を、ミュルメクスは払いのける。間近に迫った己と同じ濃い青の瞳を見返した。
「――勝手に私を巻き込むな。手は貸してやるが、お前の一派に加わる気はないし、兄と寝る趣味もない」
「確かに、血の濃い子供を作るのは禁忌と言われているけれどね。だから彼女に手を出さないのかい」
「離れろ。エフィメラが欲しいなら本人にそう教えておいてやる。教えるだけだがな」
「そんなことは言っていないだろう。……別にこんな事をしたって、混ざりはしないじゃないか、僕らは」
 相手のゆるく結わえられた黒髪が肩から滑り落ちて揺れる。吐息が掛かりそうな距離で、互いの台詞が交わされる。
「やめておけ。――たかが一夜の、駆け引きの契りで情を覚えるほど、私は情け深くはない」
「…………一夜ね、そうか、残念だ」
 内容の割りには落胆したような素振りも見せず、男は身を引いて立ち上がる。残念なのはお前だけだ、という台詞を呑み込んで、ミュルメクスは男を見上げた。まさかこれ以上何かするようなら蹴りつけてやろうと、ミュルメクスが密かに足に力を込めたのが判ったわけでもあるまいが、見事に引き際を弁えている。
「じゃあ何をすればお前の関心をかえるのかな。恩や情報ならいくらでも売るのに、お前はなかなか買ってくれないから」
「支払いに利息の付いた恩など誰が買うか」
「哀しいね、僕はあまり信用されていないようだ。ならば名誉挽回、一つ前のためになる話を教えてあげよう」
「気乗りしない」
 突っぱねようとするミュルメクスに、そう言わず、と男は笑いかける。
「聞いておいた方が身のためだよ。――今日、議会で決が下った」
 あまりにも軽く告げられたそれの意味をミュルメクスが理解しきるよりも先に、含んだような調子で男は続ける。
「明日、ここには役人共が大挙して押し寄せるだろう。勿論、お前を捕らえにね」
 それで「決」の意味を正確に理解して、ミュルメクスは小さく舌打ちする。
「お前……それを言いに来たなら最初に話せ」
「楽しい時間は出来るだけ引き延ばしたいだろう? それで、どうする? お前、おとなしく捕まるクチじゃないだろう」
「当然だ。だからお前の相手をしている暇はない」
 むしろ解っていてあんな誘いを掛けてきたのだから、このまま追い出してしまいたいくらいだ。立ち上がって部屋を出て行こうとするミュルメクスの背中に、声が投げられる。
「逃がしてやろうか?」
 思わず足が止まった。
「お前と、あと2、3人程度なら、国境まで世話してやっても良いよ」
 振り向いた先、にこりと微笑んだ男を僅かの間見つめる。
「……言ったろう。利息付きの恩など御免だ」
 男の笑みが苦笑に変わったのを見てから、ミュルメクスは踵を返す。その背中に向かって、もう一度男は呼びかけた。
「上手に逃げるんだよ。捕まったら、僕はお前の首を落とさなければならないから」



言い訳というか蛇足
・名前がないのは、名前を付けると本気でROMに編入したくなるから。
・兄上は目的のためなら手段を選ばないタイプ
・この人達の国の宮廷は、バリバリの男社会
・兄上はこう見えて慎重なので、敵にならない相手にしかここまで胸襟開かない
・黒プリは最初から王位とか要らないって言ってるので、最終目的に対する敵にはならない
・首を落とすというのは、半ば比喩で、正確には兄上は、首を落とすよう号令かけなきゃ成らない位置にいる人。
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2010/08/29
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