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2024/09/23

 裏庭に出て、用意しておいた桶の上に所々に焦げ目の付いたシーツを広げ、バケツの中身を開ける。冷え切った水と共に、ごろりと大きな氷塊が姿を現した。
「出しちゃうの?」
「このままでは大きいでしょう?」
 濡れたシーツで氷を包んで、リヴェルリは立ち上がる。槌で砕いても構わないのだが、リヴェルリや老体の神父様が槌を振るうよりはこちらの方が早い。
「そこを、動かないでくださいね」
 そう念を押して、リヴェルリは星術器を起動させる。――今度は先ほどよりも出力が要る。そう、例えば魔物を撃つときのそれのような。
 今度は数歩離れて氷塊に手を翳し、リヴェルリはエーテルの動き、その中へと意識を下ろしてゆく。揺らめくエーテルを含む粒子達の宿す、正と負の2つの力。
 今度はもっともっと細かい制御を行わなければならない。陽子の縛鎖から逃れようと激しく動き回る電子の動きを制御する。作るのは電離の道、ほんの僅かな正と負の差――そうして制御していた電子を一気に解き放つ。
 手袋に包まれた手から放たれたかに見える雷撃が、ぱっと真昼の庭に走る。ジグザグの軌道を描いて電撃が氷塊に達した瞬間、激しい音を立てて、シーツに包まれた氷塊が弾けた。
 大きな音に、びく、と背後にいた少女が肩を震わせたが、こればかりは仕方ない。
 エネルギーを持った雷撃が、高純度の水からなる氷に流れる。だが、高純度の氷は電気を通さない――結果、行き場を失ったエネルギーは、衝撃と音、それから熱に変換される。
 ――多分、リヴェルリのような方法でエーテルを扱う者は少ない。異端なのだ、と思う。けれどリヴェルリは、この方法以外に世界の法則を利用する術を知らない。
 水蒸気の湯気を立てるシーツを剥いでみれば、氷塊には白い亀裂が幾つも走っていた。布で包むようにしながらブリキのバケツに氷だけを移すと、氷塊はバケツの底に触れた瞬間、あっけなく砕けて細かな粉と子供の拳ほどの塊にわかれる。
「あの、ありがとうございます、シスター」
 バケツの中に白く光る氷塊を覗き込んで、少女が言う。
 いいえ、と笑って、リヴェルリは立ち上がった。勿論、バケツを持って。
「では、ヤラッカの所に急ぎましょうか。―― 一人では重いでしょうから」

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2010/10/21
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