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2024/09/23

 はやく、と急かすようにリヴェルリの周りをせわしなく歩き回っていた少女は、リヴェルリが星術具を持ち出してくるのを見ると、すぐに机に齧り付いた。
 ほほえましさに内心だけで小さく笑い、リヴェルリは手袋をはめた手で机上のバケツ――先ほど汲んできた水が7分ほど入っている――を土間へと下ろした。彼女にはこの方が覗きやすいだろう。
 そこを動かないでくださいね、そう念を押して、バケツの水の上へと手袋を嵌めた方の手を翳す。
 ――熱気と冷気というのは、「熱」という共通項で括れば、両者はさほど遠いところにあるものではない。ただ世界を構成する微細な粒子の振動が大きいか、小さいか。ごく穏やかな震えに満たされたこの世界では、そのどちらかに振動を少し傾かせるだけで、大きなエネルギーを生む。
 だからリヴェルリは、この温い空気の中に僅かに含まれた、冷気の属性を帯びたエーテルを集める必要はなく、ただエーテルと、微細な粒子の振動を制御してやるだけで良い。
 エーテルの流れを読む――体の周りを流れる緩やかなそれ。その一部だけを滞らせる。掴み取ったエーテルの、その注意してみなければ解らないほどの微細な震え。ここから先は少し集中が必要だ。必要なのはほんの少しだけ。水面の中心に、冷えたエーテルを集める。そのまま宥めるように、震えを、粒子の波動を落としてゆく。少しづつ――決して急いではならない。静止に限りなく近くなった粒子は、近接粒子からエネルギーを得ようとする。全てを均一にしようとする世界の法則が、凍える温度を水の中に伝えてゆく。
 ふ、と水面に僅かな歪みが現れた。それはすぐに白い曇りを帯びて、バケツ中に広がってゆく。リヴェルリが星術の発動を止めてもそれは僅かな間拡大を続けたが、やがてバケツの縁に僅かに水を残した状態で安定した。その周囲だけが水のままの状態のバケツを持って、リヴェルリは裏口へと向かう。着いていっていいものかどうか迷っているらしい少女に、来ますか?、と声を掛けて、リヴェルリは裏口の戸を開けた。

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2010/10/21
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