樹が見えますよ、ファーラ様!
甲板からの声に、少しだけ遅れて船室の戸が開く。あまり立て付けが良いとは言えない扉を、それでも出来るだけ静かに開いた少女の後ろから、日の差す甲板へと歩み出たのは、白いドレスのお姫様。
そのドレスよりも尚白く灼ける日差しに眼を細めて、彼女は薄い手袋をはめたいかにも淑女然とした手を額に翳し、ああ、と小さく感嘆の声を上げる。
「なんて巨きい」
未知のものへの驚きと、尊いものへの畏敬、美しい物を見たときの恍惚、そんなものが入り交じった声で呟いて、彼女はゆったりと船の端へと歩み寄った。
「あの樹の根元に、沈んだ海都があるのね」
「あの樹が擁する迷宮も。――本当に潜るんですか。くどいとお思いでしょうが、俺は出来れば止めて欲しいと思ってます。あんな、毎日生きるか死ぬかをするような所」
「心配してくれるのね。ありがとう」
彼の言に、白いドレスの少女は微笑んでそう答える。いつも、いつも。
それが拒絶だということは、もうずっと前から解っているので、彼は溜息をついて、柵から離れた。
「――お城の中だって、生きるか死ぬかなのは同じだわ」
「、ファーラ様」
控えめに名前を呼ばれて、彼女は振り返る。何処か悲しげな顔をした水色のエプロンドレスの少女が差し出す日傘をありがとう、と受け取って、彼女は謝罪のために微笑んだ。
「ごめんなさいね。聞かせるつもりじゃ、なかったの」
甲板からの声に、少しだけ遅れて船室の戸が開く。あまり立て付けが良いとは言えない扉を、それでも出来るだけ静かに開いた少女の後ろから、日の差す甲板へと歩み出たのは、白いドレスのお姫様。
そのドレスよりも尚白く灼ける日差しに眼を細めて、彼女は薄い手袋をはめたいかにも淑女然とした手を額に翳し、ああ、と小さく感嘆の声を上げる。
「なんて巨きい」
未知のものへの驚きと、尊いものへの畏敬、美しい物を見たときの恍惚、そんなものが入り交じった声で呟いて、彼女はゆったりと船の端へと歩み寄った。
「あの樹の根元に、沈んだ海都があるのね」
「あの樹が擁する迷宮も。――本当に潜るんですか。くどいとお思いでしょうが、俺は出来れば止めて欲しいと思ってます。あんな、毎日生きるか死ぬかをするような所」
「心配してくれるのね。ありがとう」
彼の言に、白いドレスの少女は微笑んでそう答える。いつも、いつも。
それが拒絶だということは、もうずっと前から解っているので、彼は溜息をついて、柵から離れた。
「――お城の中だって、生きるか死ぬかなのは同じだわ」
「、ファーラ様」
控えめに名前を呼ばれて、彼女は振り返る。何処か悲しげな顔をした水色のエプロンドレスの少女が差し出す日傘をありがとう、と受け取って、彼女は謝罪のために微笑んだ。
「ごめんなさいね。聞かせるつもりじゃ、なかったの」
PR
( 2010/04/03)
ブログ内検索