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2024/09/23

 今にして思えば。あれは最初で最後で最高の殺し文句ではなかっただろうかと、彼は細く練り上げられた香を軽く振って、先に灯った炎を消した。途端に立ち上がる細い煙に僅かに眼を細めて、名の一つも刻まれなかった石碑を真正面から見据えた。決して後ろ暗いところがあったわけではない。ただ、何処で客死しても解らぬ彼等は個の墓を残さず、こうして一族ひとところにて慰霊を行うというだけのこと。納得できぬでもないが、一族の慰霊なのか墓参りなのか判然としない行為には、些か戸惑うものがある。
 ただそれでも、彼がこうして香をあげに来るのは、今の所たった一人のためだけだ。
『九泉の畔でお待ちしております。いつまででも』
 ただ待つと言えば、自ら命を絶つのも腹をくくるのにも、簡単に言い訳一つを用意できたというのに。
 いつまで、と、その裏に添えられた意味に気付けぬほど彼も愚鈍ではない。だからこそこの齢まで生きて、木槿の花の咲く頃にこうして香を添えに来る。 

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 若ショとポニシノ。墓参り。

 いつまででも待ちますから、急ぐ必要はありません。再会の暁にはもう一度お仕えさせてください。
そういう意味だから死ぬに死ねないし誇りも捨てられない。捨てる気もない人だけど、釘を刺された。
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2012/08/30
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