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2024/09/23

 三足程で登り切った彼が、岩上の平面に膝を付く。両足ともが岩の上に揃うと、握った掌が緩んだので、おとなしく手を離した。離してしまってから、未練がましくも少し名残惜しい気分になった私を余所に、彼は適当な位置に体をずらして腰を下ろす。ありがとう、と言う声に言葉を返すのもなんだか大袈裟な気がして、うん、とだけ頷いた。
「星、少しだけなら解るよ」
「では、ご教授願うよ」
 ええと、言いながら天を仰ぐ彼は、それでも足りなかったのか、両手を斜め後ろについて体を傾ける。狭い岩上では隣り合うことは出来ず、けれど背中合わせでもない微妙な角度で、少しだけ肩が触れあった。
 あれが大三角、あれが天馬の翼、あれが明るさの変わる鯨の心臓、それから天馬の星を繋いで延ばして、明るい星を探す方法。
 彼は存外星空に詳しくて、私はただそれを感心して聞いている。細かな光の散る空から、いくつかの星を見つけ出してくる鮮やかさは、まるで魔法のようだ。
 柄杓の形をした明るい星々の、2番目は二つの星で出来ているのだと彼が語るので、私も彼の指先に眼をこらす。
 眩しいくらいの星空の中で、目当て星を探すのはなかなか難しい。手伝うように、彼の指先が柄杓の形を追って動く。
「――あそこだよ」
 せせらぎ以外聞こえない静けさに合わせて落とされた声が肩口辺りで聞こえて、一瞬気を散らした私のすぐ傍で、彼がもう一度言った。
「端から、1、2、……見えた?」
 私はといえば、ともすれば彼の方へ傾きそうな意識を彼の指先の示す方へ集中し、目当ての二つ星を見つけるのに精一杯だ。やっと見つけてそう言うと、彼は満足したように、うん、と頷いた。
「それから、あれが北極星。あ、でも北極星っていうのは星の名前じゃなくて、いつでもあの位置にいて動かない星のことなんだ。だからずーっと昔は別の星があの位置にあったんだって」
「ああ、そういう星は羅震獄にもあったよ」
 へえ、と彼は興味深そうに相づちを打ってくれたが、残念ながら私はそれ以上語ることが出来ない。地崩れで舞い上がった埃の舞う空は、星の光をほとんど通さなかった。
 ……そんな崩れかけた世界の様を、彼に話したことはなかったけれど。

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 マキシさんとミロクさん。視点を変えたら随分ほのぼのになってしまいましたが、これはこれで気に入ってます。気力があれば後一回分書きたいんですが、どうなるかな……このままじゃ核心に触れず終わってしまいそう。

 ミロクさん達は羅震獄の星空を知らない気がします。土埃やら雲やらで一等星くらいしか見えない。
 ルキアさん達に至っては、星を見たことすらなかった。

 書くまでもない気がしますが、サイプレス1→マーブル→サイプレス2と続いてます。


 星空は秋~冬のリアル日本の星空に準拠してます。……してるつもりです。
 大三角は冬の大三角、天馬はペガスス。
 ただ、くじら座には確かにミラという脈動変光星がありますが、別に心臓ではなかったと思います。
 北斗七星の二重星はミザルとアルコルのこと。
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2009/11/21
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