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2024/09/23
 神羅

「40.6度」
 相変わらずの何を考えているのかよく解らない声が、体温計の計測結果を読み上げる。多分1メートルと離れていない場所からの声なはずなのだけれど、今は近いのだか遠いのだかよく解らない。ついでに視界に広がる天井の遠近感もよく解らない。
「あと1.4度でメントールが溶けるな」
 ぼそりと実に人ごとな台詞がベッドサイドから聞こえて、アスエルは濡れたタオルの下からそちらへと視線を向ける。
「と……溶けてたまりますか」
 人の体温の上限は摂氏42度、それが恒常性を保てる限界だ。メントールの融点は42度から45度。人肌で溶けたら多分死んでいる。うわぁやだなぁ!
「大体、なんで貴方がここに居るんですか……油売ってないで仕事してくださいよ」
「なんでって、そりゃ酷いんじゃないかいアスエル君。君は寄りにもよって共用の仮眠室でダウンして、そのままベッドを占領しているんだよ?私が此処にいたって、何らおかしいことはないじゃないか」
 う、とアスエルは言葉に詰まる。確かに、突発的に出た高熱によって仮眠室を占領してしまったことは悪いと思っている。……思ってはいる、が、しかし。
「誰の所為だと思ってるんですか……」
 先月から始めた新しい研究のために採集されたサンプルの温度管理と分離同定、抽出測定その他諸々。それに加えた日々の雑用とおさんどんに経理。サンプル関連の仕事はラティエルと分担して行っていたが、先週から研究が佳境に入ったと主張するラティエルが奥の実験室にこもりっきりになってしまったため、今週はもう本当に目が回るような忙しさだったのだ。恨み言の一つ二つ三つくらい言っても、調和神様だって怒らないだろう。
 と、思ってベッドサイドに座るラティエルの分厚い眼鏡を精一杯睨み付ける。
 ラティエルはのほほんと宣った。
「君は可愛い顔をするねぇ」
 何言ってるんだこの人。
 二の句が継げないアスエルを余所に、確かに、と足を組み替えながらラティエルは言う。
「私も少々悪かったとは思っている。だからこうして体温を測りに来たり、タオルを用意したり、かいがいしくも看病しようとしているのじゃないか」
 一応罪悪感じみたものは感じてくれているらしい。どの辺が「かいがいしい」のかは不明だが、それでも自分のためにラティエルが何かしてくれようとしたことには感謝しておくべきだろうか。
「そうそう、後で粘膜サンプルを取ってくれないか?今年の流感として保存しておけば何か後々役に立つかも知れない。地上の流感と比べてみたら面白いかも知れないねぇ。いや、ウイルスだから、あまり比べ甲斐はないかな」
 ……前言撤回。やっぱりこの人面白がってるだけじゃないのか。アスエルは深く溜息をついて答える。あー、関節が痛い……
「良いですけど……流感だとは限らないじゃないですか」
「この時期に一気にぱっと熱が上がって全身症状が出る、これが流感じゃないとしたら大発見かも知れないねぇ。大丈夫だよ、ちゃんと同定するから」
 何が大丈夫なのか、もはやつっこむ気も起きない。というか、伝染る病気だと解っているのならマスクの一つもしたらどうなんだろう。そう言うと、君はたかが不織布一枚でウイルスを防げると信じているのかね?と眼鏡を光らせて問い返された。……正直、信じてたんですけど。




「ともかく、だ。熱が高いようだから解熱剤を用意しよう」
「……ありがとうございます」
「それで薬の形状なんだが、錠剤と座薬どっちが良い?」
「なんでその選択肢なんですか、錠剤じゃダメなんですか」
「胃腸から吸収された成分は門脈を経由し、肝臓に到達するとそこで化学的修飾を受ける。対して直腸から吸収された物質は肝臓を通らず、直接体循環に入るから、胃腸にも良いし代謝の反応も受けにくく効果が高い」
「すいませんまったく何を言っているか解りません」
「まあ、要約すると座薬がおすすめということだよ。何ならいれてあげようか」
「結構ですッ!」

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2009/09/25
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