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2024/09/23
 神羅

 ぽた、と濡れた葉がまた一つ滴を落とした。
 新緑を少し過ぎた頃合いの葉は、いよいよ艶やかに緑を濃くして、透明な水滴を受けている。しとしとと降り続く雨に湿らされた空気はじっとりと纏わりつくような重さを持っていたが、同じく雨粒の冷たさも併せ持っており、冷えた微かな風を不快に感じることはなかった。
 濡れた石灯籠の脇を通り過ぎ、白から灰色へと色を変じている石畳を踏む間にも、頭上に広げた傘でぱたぱたと雨滴の弾ける音がする。石畳から外れた泥濘に絶え間なく波紋が咲いては消えてゆくのを眺めながら、フガクは先を行く潤朱色の傘を追う。
 本当は、急ぐほどの距離ではない。目的地までの一本道は、目を閉じて歩いても辿り着ける。だが、それでもフガクは少しだけ足を速める。前を行く父へ少しでも近づくために。
 ――その姿に、尊敬や憧憬とは違った思慕を覚えるようになったのは、一体いつからだったのか。
 触れてはいけない。それは侵しがたい領域であると思う心の裏側で、触れたい、と囁く声がある。
 追いつきたい背中に、追いつくことを畏れる心を持て余しながら、フガクはその姿を追い求めている。
 急な石段を登り切った先には年経た風情の門がある。それをくぐればもうそこは王家の祠廟だった。
 傘を受け取る者は居ない。居ることを許されない場所だ。傘を畳もうと傾がせた朱色の傘から一斉に雨粒が滑り落ちた。
 同じように潤朱色も傾いて、足下にぽたぽたと水滴が落ちる。
 朱と緋、二つの赤の合間に視界が閉ざされる。

 それはほんの一刹那、外界から隔絶される一瞬。

 今、この瞬間になら、触れられる、の、だけれど。

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2010/02/11
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