「案外似合うじゃないですか」
明らかに面白がっている風な声の主を、俺は鏡越しに睨んでやった。
けど、洗面所の入り口に軽く凭れていたギーファは、軽く肩を竦めて見せただけ。いやむしろ、竦めたんじゃなく、笑ったのかも知れない。……確かにこのかっこじゃ、何しようが面白いだけかも知れねーけどさ……
「あんまり笑うんじゃねーよ」
「これは失礼。まるで縫いぐるみのようだったので、つい」
「ぬいぐるみ……」
ファンシーな単語を復唱して、俺は鏡の中の自分の頭を見直した。いつも通りの逆立てたヘアスタイルの上に乗って……や、生えてるのは、まさにギーファが指摘したような、キャメル色の柔らかな毛を生やしたテディ・ベアの耳だ。
いっとくけどコレは俺の趣味じゃない。
ついでにいっといてやると、俺の後ろで笑ってるコイツの趣味でもない。いや、罰ゲームになら楽しくもない獣耳装着を要求しかねない奴だけど、少なくともコイツはクマじゃあないと思う、いやそんなことはどうでもいいけど。
北斗七星団と鎧羅軍の仕事は、何も戦闘だけじゃない。もちろん有害モンスターを駆除するようなこともあるけど、実は要人警護、治安維持、災害救助その他諸々の任務の方が多かったりする。そんな鎧羅軍はフレンドリーにも一般市民との垣根を無くすために、頻繁に基地開放だとかイベントだなんかを行っていて、特にハロウィンは秋の終わりの一番大きなイベントだ。当日は星団員も仮装やら変装やら解らない格好をして、曲芸じみた芸を見せたりなんだりをする。
……で、今年は戦争終結記念に、他部族のカッコをして曲芸だかパレードだかをするんだそうだ。
因みに俺の所属する第六星団が扮するのは、獣牙族。
「でもいくらイベントで、市民に親しんでもらうためーだからって、大の男に獣耳はねーだろ……」
「君、それ外で言ってはいけない言葉だって解ってますか? 同盟組んだ獣牙と小競り合いなんて、私は御免ですよ」
「解ってるよ。獣牙族はさぁ、良いんだよ。なんか紋様とか爪とか?男らしーじゃん。でも俺等、付け耳付け尻尾だぜ? ぶっちゃけさ、女装だろこれ!?」
「良いじゃないですか、面白くて」
面白くもない仮装なんてモグリですよ。常日頃から大道芸人のような人形を連れ歩いているギーファが腕を組んで言う。
そりゃ、ハロウィンは俺等鎧羅住民にとってはお祭りだ。馬鹿騒ぎしたり大胆なことしたりするのが正しい楽しみ方だってのは俺だってそう思う。けど何だかなぁ……
「そう言う第五はどこやるんだよ?」
「私の所は特に面白くはありませんよ」
言ったギーファが視線で洗面所の隅を示す。横に突っ張った物干しには、いつもギーファが着ているのよりもいくらかシンプルな黒い上着が――詳しく言うと、翼の生えた黒い上着がハンガーに吊されていた。
「飛天族かよ……」
ギーファが飛天族。うーん、髪色はギリギリクリアとしても、こんな背が高くて肩幅がっちりした飛天族とかイメージ狂うな。いやでも、見えにくい糸を使えばコイツの人形はまるで魔法で動いてるように見えるかも知れない。はまってる、と言えばはまってるか。
「どちらかというと、君の付け耳の方が上等ですな」
確かに、鳶のような茶色い翼は、形といい羽根の付き方といい、ちょっとチープな感じだ。これなら俺のテディベアの耳の方が本物っぽい。
「第六が獣牙、第五が飛天、って事は第七は聖龍?」
「そうですよ。……君、もしかしてマルス将軍のことを見ていない?」
「見てないって、マルス将軍だろ?朝見たぜ?」
「そうじゃなく、あの人が仮装しているところを、ですよ」
「聖龍族の?」
「なんと言いますか……まるで節分でも始めそうな感じでしたよ、角の生えた将軍は」
明らかに面白がっている風な声の主を、俺は鏡越しに睨んでやった。
けど、洗面所の入り口に軽く凭れていたギーファは、軽く肩を竦めて見せただけ。いやむしろ、竦めたんじゃなく、笑ったのかも知れない。……確かにこのかっこじゃ、何しようが面白いだけかも知れねーけどさ……
「あんまり笑うんじゃねーよ」
「これは失礼。まるで縫いぐるみのようだったので、つい」
「ぬいぐるみ……」
ファンシーな単語を復唱して、俺は鏡の中の自分の頭を見直した。いつも通りの逆立てたヘアスタイルの上に乗って……や、生えてるのは、まさにギーファが指摘したような、キャメル色の柔らかな毛を生やしたテディ・ベアの耳だ。
いっとくけどコレは俺の趣味じゃない。
ついでにいっといてやると、俺の後ろで笑ってるコイツの趣味でもない。いや、罰ゲームになら楽しくもない獣耳装着を要求しかねない奴だけど、少なくともコイツはクマじゃあないと思う、いやそんなことはどうでもいいけど。
北斗七星団と鎧羅軍の仕事は、何も戦闘だけじゃない。もちろん有害モンスターを駆除するようなこともあるけど、実は要人警護、治安維持、災害救助その他諸々の任務の方が多かったりする。そんな鎧羅軍はフレンドリーにも一般市民との垣根を無くすために、頻繁に基地開放だとかイベントだなんかを行っていて、特にハロウィンは秋の終わりの一番大きなイベントだ。当日は星団員も仮装やら変装やら解らない格好をして、曲芸じみた芸を見せたりなんだりをする。
……で、今年は戦争終結記念に、他部族のカッコをして曲芸だかパレードだかをするんだそうだ。
因みに俺の所属する第六星団が扮するのは、獣牙族。
「でもいくらイベントで、市民に親しんでもらうためーだからって、大の男に獣耳はねーだろ……」
「君、それ外で言ってはいけない言葉だって解ってますか? 同盟組んだ獣牙と小競り合いなんて、私は御免ですよ」
「解ってるよ。獣牙族はさぁ、良いんだよ。なんか紋様とか爪とか?男らしーじゃん。でも俺等、付け耳付け尻尾だぜ? ぶっちゃけさ、女装だろこれ!?」
「良いじゃないですか、面白くて」
面白くもない仮装なんてモグリですよ。常日頃から大道芸人のような人形を連れ歩いているギーファが腕を組んで言う。
そりゃ、ハロウィンは俺等鎧羅住民にとってはお祭りだ。馬鹿騒ぎしたり大胆なことしたりするのが正しい楽しみ方だってのは俺だってそう思う。けど何だかなぁ……
「そう言う第五はどこやるんだよ?」
「私の所は特に面白くはありませんよ」
言ったギーファが視線で洗面所の隅を示す。横に突っ張った物干しには、いつもギーファが着ているのよりもいくらかシンプルな黒い上着が――詳しく言うと、翼の生えた黒い上着がハンガーに吊されていた。
「飛天族かよ……」
ギーファが飛天族。うーん、髪色はギリギリクリアとしても、こんな背が高くて肩幅がっちりした飛天族とかイメージ狂うな。いやでも、見えにくい糸を使えばコイツの人形はまるで魔法で動いてるように見えるかも知れない。はまってる、と言えばはまってるか。
「どちらかというと、君の付け耳の方が上等ですな」
確かに、鳶のような茶色い翼は、形といい羽根の付き方といい、ちょっとチープな感じだ。これなら俺のテディベアの耳の方が本物っぽい。
「第六が獣牙、第五が飛天、って事は第七は聖龍?」
「そうですよ。……君、もしかしてマルス将軍のことを見ていない?」
「見てないって、マルス将軍だろ?朝見たぜ?」
「そうじゃなく、あの人が仮装しているところを、ですよ」
「聖龍族の?」
「なんと言いますか……まるで節分でも始めそうな感じでしたよ、角の生えた将軍は」
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( 2009/10/21)
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