「ハッピーバレンタイン」
台詞と共に、ほとんど鼻先にココアパウダー塗れの物体が突き出された。
見た目こそはつるりと球状に整えられた表面に、芳醇な香りを放つココアをまぶした上品そうな菓子だったが、そのシンプルな外見と表面の苦みは裏腹に、その中身は大層甘ったるいことをナルサスは知っている。
……人のことを言えた義理ではないものの。
悪い意味で似ている、と彼は思う。
目の前の人物も見た目こそハートでも飛ばしそうな上機嫌の、いかにも人の良さそうな笑みだったが、その腹の内まで同じように人が良いとは限らない。
「どうした、食べないのかね」
言って、メルキオールは摘んだトリュフを指先でほんの少し転がす。ごく僅かな量のココアが剥がれて指に残るのを見ながら、ナルサスは深く溜息をついた。
この距離に差し出すということは、つまり直接口にしろと仰るのですね?
ほら、と急かされてナルサスは渋々口を開く。
途端に、待っていたように口にトリュフを押し込まれて、ナルサスはぎょっとした。
唇に一瞬だけ触れた指は、満足げに去ってゆく。
口の中に残った一粒は、ココアパウダーが剥がれてみれば矢張り大層甘ったるく、呑み込んだ後も香りと甘みが濃厚に残った。
「……私は、こういうものは苦手なのですが」
言えば、メルキオールは指に残ったココアを舐めて、知っているよ、と悪戯っぽく笑った。
(ああまったく、子供のうちにもう少し怖い目に遭わせておくべきだったのでしょうか!)
台詞と共に、ほとんど鼻先にココアパウダー塗れの物体が突き出された。
見た目こそはつるりと球状に整えられた表面に、芳醇な香りを放つココアをまぶした上品そうな菓子だったが、そのシンプルな外見と表面の苦みは裏腹に、その中身は大層甘ったるいことをナルサスは知っている。
……人のことを言えた義理ではないものの。
悪い意味で似ている、と彼は思う。
目の前の人物も見た目こそハートでも飛ばしそうな上機嫌の、いかにも人の良さそうな笑みだったが、その腹の内まで同じように人が良いとは限らない。
「どうした、食べないのかね」
言って、メルキオールは摘んだトリュフを指先でほんの少し転がす。ごく僅かな量のココアが剥がれて指に残るのを見ながら、ナルサスは深く溜息をついた。
この距離に差し出すということは、つまり直接口にしろと仰るのですね?
ほら、と急かされてナルサスは渋々口を開く。
途端に、待っていたように口にトリュフを押し込まれて、ナルサスはぎょっとした。
唇に一瞬だけ触れた指は、満足げに去ってゆく。
口の中に残った一粒は、ココアパウダーが剥がれてみれば矢張り大層甘ったるく、呑み込んだ後も香りと甘みが濃厚に残った。
「……私は、こういうものは苦手なのですが」
言えば、メルキオールは指に残ったココアを舐めて、知っているよ、と悪戯っぽく笑った。
(ああまったく、子供のうちにもう少し怖い目に遭わせておくべきだったのでしょうか!)
PR
( 2008/02/16)
ブログ内検索