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2024/09/23

 またもやプリバリ女性向けです……今更ですが。
 場面は多分19階到達直後。
 18階時、地図的にもうすぐ19階への階段があるので、日暮れ近いけど野営しましょう、で野営して翌日進んだらカマキリけしかけられて進むに進めず、一日かけて突破法を練ってようやく19階に辿り着いて糸で帰ってきました、的な場面。

 ちょっとばかり女性向け要素があるので追記で。

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「無事で、良かった」
 溜息のように微かな声、ありきたりな台詞ではあったが、声音に込められた万感の思いは鼓膜を揺らして、じわりと疲労した心に染みた。
 肩に置かれた手から伝わる体温が、迷宮から引きずってきた緊張をゆっくりと融かしてゆく。
 それだけでもう、気の休まらぬ迷宮内の野営も、海都の将軍との決別も、カマキリとチェスさながらの追いかけっこをしたことすら、どうでも良いことのように遠くなる。
 至近の距離にある濃い青の瞳が愛おしげに細められ、やはり囁くような声音で、けれど1音も粗末には扱うまいとでもいうかのようにはっきりと――先ほどとは比べものにならないほどの想いが込められた声で、名を呼ばれる。
「ランビリス」
 愛を告げる言葉に勝るとも劣らない甘さと、一抹の切なさの込められた音に、とっくに陥落している心がざわめく。彼が欲しいというのならば、このまま全てを明け渡してしまってもいいのかも知れない――そんな想いさえ抱く。否、実際遠からずランビリスはそうしていただろう。――ただし、ここが海都の一角、人通りの絶えた路地でさえなければ。
「――ちょっ、と、待て!」
 背後に壁の感触を感じ、退路がないことに心中で冷や汗をかきながら、ランビリスは慌てて接近してきたミュルメクスの肩を掴んで止める。
「……なんだ?」
 不満げにミュルメクスが眉を顰める。どうやら冗談のつもりはないらしい。
「こんなとこで、人が来たら、」
「この夜更けに? お前は無いような可能性を心配するのが好きだな」
 皮肉るような台詞と共に青い瞳が近付く。一昼夜以上を迷宮内で過ごし、弩を担いでカマキリと追いかけっこをした腕は、自分で思うよりも疲労していたらしく、易々と接近を許してしまう。――そのまま唇が重なった。
「――っ、ん、」
 乾いた唇を、濡れた感触が這う。幾度も施されたそれに反射的に唇を開けば、柔らかな舌が滑り込んできた。仕草の強引さとは裏腹に、舌の動きは繊細かつ執拗で、ねっとりと口内を掻き回したかと思えば、感触を楽しむように舌を絡ませる。迷宮帰りでは髭も伸びているだろうに、何をどうしてこんな歳の男を、と思いながらも、緩やかな愛撫のようなそれに、悪寒とは別種の震えが背筋を駆け上がる。
 もっと深く繋がりあいたいというかのように奥まで舌が伸ばされて、押しつけられた後頭部が壁にぶつかった。今度こそ完全に逃げ場を無くしたランビリスの口内を、時折角度を変えながらミュルメクスの舌が嬲ってゆく。
 息継ぎもそこそこに舌先で歯列の裏をつつかれ、絡めた舌を吸い上げられる。じわりとゆるやかに意識を侵してゆく快楽と、酸素を求める身体の喘ぎが、しだいに理性に霞をかけてゆく。
 制止のために伸ばされたはずの手が、まるで縋るようにミュルメクスの服を握りしめていることに気付いた頃、やっと口づけから解放され、ランビリスは乱れた呼吸で必死に酸素を取り込んだ。
 閉じていた瞳を開くと、ぼやけていた視界が一瞬のうちに像を結んで、こちらを見つめているミュルメクスと目があった。半ば自失して見つめ返し――唐突に我に返る。
 静かだった路地に、いつの間にか酔漢達のものと思われる笑い声が聞こえていた。
 思わず路地の入り口へと視線をやれば、角を曲がったのだろうか、俄に声が大きくなった。いかにも酒精の入った明るい笑い声からは危険は感じないが、……流石にこんな場面を見られると都合が悪い。
 とりあえずはこの体勢をどうにかしようと、ミュルメクスの身体を引き剥がそうとするが、それよりもミュルメクスの行動の方が早かった。何やら複雑そうな表情でランビリスを見つめていたかと思えば、一瞬後にはランビリスを引き寄せて強く抱き締める。
「!何やってる、人が……」
 来る、という言葉は、後頭部に回された手によって口元がミュルメクスの胸に押さえつけられ、言葉にならない。だが、そんなことよりも近付いてくる足音と声の方が今は重要だった。腕による拘束を解こうと藻掻いてみるが、がっちりと回された腕に解放する気はないようだ。
 しかし、焦るランビリスを余所に、声が唐突に小さくなる。――人が居るのに気付いて声を低くした、というわけでは無さそうだった。その証拠に、聞こえてくる会話の調子は変わらない。次第に小さくなる足音から察するに、どうやら酔漢達は手前の道を曲がっていったようだった。
「……気をつけねばな」
 ぽつりと零された呟きに、ランビリスは顔を上げる。抱き締めた腕はだいぶ緩んでおり、僅かに身じろぐとあっさりと拘束が解かれる。
「まったくだ。人の来そうな所では控えてくれよ……」
「そうではない」
 少しばかり不満げに否定されて、ランビリスは瞬いてミュルメクスを見る。
「いや、そうとも言えるか……いずれにしろ、……まあ、いい」
 彼にしては妙に歯切れの悪い言い方で会話を打ち切ると、ミュルメクスは最前からそこに置きっぱなしになっていた弩をランビリスの代わりに担いで歩き出す。
「おい、重いだろ、俺が持つ」
「今のお前が持つよりは私が持った方が移動が早い」
 その移動した後でされるであろうことに思い至り、一瞬歩調を鈍らせたランビリスだったが、結局は一つ息を吐いて、おとなしくミュルメクスの後を追うのだった。





 ゆるりと瞼が開かれて、潤んだ青い眼が現れる。溶けたように焦点を失っていた瞳の瞳孔がわずかに絞られて、自分を映したのが解った。どこか呆然としたような、不思議と幼い表情で見つめ返される。
(……本当に、気をつけなければ。)
(あんな顔は、他の誰にも見せてやるものか)
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2010/08/27
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