ちょっと濃いめの女性向け描写があるので、追記に畳んでおきます。
プリンスは割とまともなこと言っててそれなりにビビリに見えますが、ぶっちゃけこんなに殊勝なのはバリに対してだけ、しかも相当階層進んでからなんだぜ。
プリンスは割とまともなこと言っててそれなりにビビリに見えますが、ぶっちゃけこんなに殊勝なのはバリに対してだけ、しかも相当階層進んでからなんだぜ。
視線が逸れた瞬間、手を伸ばす。邪魔な眼鏡を取り上げて、抗議の声が上がるより先に、こちらを向きかけた肩を押した。
――何をしている。
何を、しようとしている?
実際の所は自問するまでもなかった。
半ば不意打ちで組み敷いた射手を、黒髪の青年は見下ろす。
この状況で、何をしようとしているのか解らない方がどうかしている。
そう、本当にどうかしている、とミュルメクスは独りごちた。こんなやり方も、おかしいと解っていて止められない自分も。
欲しいのは、躯では、行為ではないはずだった。ミュルメクスが愛しいと思っているのはランビリスの容姿などではなく、魂まで含めた全てだ。彼を傷つけるような真似は望まない――望まない、つもりだった。
けれど胸苦しくなるような焦燥と疼く劣情に抗いきれず、ミュルメクスは何か言いたげに開きかけたランビリスの唇を、己のそれで塞いだ。
彼の口からどんな言葉が紡がれるか――嫌というほど予想できるから、今は言葉は聞きたくなかった。苦しい想像を振り払うように、ミュルメクスは口腔を貪る。小さくあがった抗議の呻きを無視し、舌を差し入れた。一瞬強張った肩にはあえて気付かないふりをして、粘膜を蹂躙する。仰向けに組み敷いたランビリスに逃げ場がないのを良いことに、唇を食み、絡めた舌を吸い上げると、少しだけ鼻にかかった声が押し殺された。
感じているのだろうか。ふと脳裏をよぎったそんな考えを意識した途端、ずくりと欲望が疼いた。
思考の端に残っていた理性が警鐘を鳴らす。――これでは本当に止まらなくなってしまう。
このまま彼を貪り尽くしてしまいたい。触れて、犯して、快感で追い詰めて淫靡に喘がせてみたい。そんな思いが沸き上がってくる。
そんな危険な衝動は捨ててしまえと理性は喚くくせに、宿る欲望の熱いこと甘美なこと。
くらくらと目眩を感じながら、ミュルメクスは上体を起こす。興奮で鼓動が速い。わざとゆっくりと呼吸をしながら、ミュルメクスは見上げてくる青い視線を受けた。
僅かに息を乱したランビリスは、思っていたよりも静かな眼の色をしていて、そこにまだ軽蔑の色が浮かんでいないのが救いだ。
「……ミュルメクス」
ぽつりと呼ばれた名に、ミュルメクスは思わず身を固くする。続く言葉は拒絶か、或いはこの横暴に対する糾弾か。
――そう、彼には糾弾する権利がある。今までの態度を見ていれば、ランビリスが肉体的な関係を望んでいるわけではないのは明らかだ。おまけに恋愛感情を持っているのは自分だけで、ランビリスはまだ一度たりとも性的な意味で好意を表してくれたことはない。
罵られて当然なのだ。いや、彼の性格を考えれば、そんな口汚い言葉は口にせず拒絶を示すだけかも知れなかった。いずれにしろ、彼の心が遠のくことに変わりはない。
けれど救えないのは、そうと解っていながらこの先に進みたいと思っている己の欲望だった。先の口づけと同じように――否、それ以上に深く触れあい、交わって一つになりたい。自覚するたび胸の内を焦がす、苦しいほどに逼迫した欲望。
けれどこの欲望を通せば、間違いなく彼を傷つける。
相反する二つの願いの狭間で動けないミュルメクス。その紅茶に似た色をした頬に、ランビリスが手を伸ばした。
酷く辛そうに硬い輪郭を晒す頬をひどく優しげに撫で、――彼は苦笑する。
「そんな顔すんなよ。……鍵、閉めてくれないか」
ミュルメクスは眼を見開いた。信じられない、という表情で想い人を見下ろす。一つ息を吸い込んで、喘ぐように吐き出した。
「……っ、いいのか?」
「お前がそれを聞くか?」
「鍵を掛けたら、お前は私から逃げられなくなるぞ」
「お前は、」
ふと穏やかな苦笑を解いて、ランビリスは問う。
「今のを無かったことにして俺に逃げて欲しいか?」
そんなわけがない。
「……いいや」
無かったことになど、出来るわけがなかった。
――何をしている。
何を、しようとしている?
実際の所は自問するまでもなかった。
半ば不意打ちで組み敷いた射手を、黒髪の青年は見下ろす。
この状況で、何をしようとしているのか解らない方がどうかしている。
そう、本当にどうかしている、とミュルメクスは独りごちた。こんなやり方も、おかしいと解っていて止められない自分も。
欲しいのは、躯では、行為ではないはずだった。ミュルメクスが愛しいと思っているのはランビリスの容姿などではなく、魂まで含めた全てだ。彼を傷つけるような真似は望まない――望まない、つもりだった。
けれど胸苦しくなるような焦燥と疼く劣情に抗いきれず、ミュルメクスは何か言いたげに開きかけたランビリスの唇を、己のそれで塞いだ。
彼の口からどんな言葉が紡がれるか――嫌というほど予想できるから、今は言葉は聞きたくなかった。苦しい想像を振り払うように、ミュルメクスは口腔を貪る。小さくあがった抗議の呻きを無視し、舌を差し入れた。一瞬強張った肩にはあえて気付かないふりをして、粘膜を蹂躙する。仰向けに組み敷いたランビリスに逃げ場がないのを良いことに、唇を食み、絡めた舌を吸い上げると、少しだけ鼻にかかった声が押し殺された。
感じているのだろうか。ふと脳裏をよぎったそんな考えを意識した途端、ずくりと欲望が疼いた。
思考の端に残っていた理性が警鐘を鳴らす。――これでは本当に止まらなくなってしまう。
このまま彼を貪り尽くしてしまいたい。触れて、犯して、快感で追い詰めて淫靡に喘がせてみたい。そんな思いが沸き上がってくる。
そんな危険な衝動は捨ててしまえと理性は喚くくせに、宿る欲望の熱いこと甘美なこと。
くらくらと目眩を感じながら、ミュルメクスは上体を起こす。興奮で鼓動が速い。わざとゆっくりと呼吸をしながら、ミュルメクスは見上げてくる青い視線を受けた。
僅かに息を乱したランビリスは、思っていたよりも静かな眼の色をしていて、そこにまだ軽蔑の色が浮かんでいないのが救いだ。
「……ミュルメクス」
ぽつりと呼ばれた名に、ミュルメクスは思わず身を固くする。続く言葉は拒絶か、或いはこの横暴に対する糾弾か。
――そう、彼には糾弾する権利がある。今までの態度を見ていれば、ランビリスが肉体的な関係を望んでいるわけではないのは明らかだ。おまけに恋愛感情を持っているのは自分だけで、ランビリスはまだ一度たりとも性的な意味で好意を表してくれたことはない。
罵られて当然なのだ。いや、彼の性格を考えれば、そんな口汚い言葉は口にせず拒絶を示すだけかも知れなかった。いずれにしろ、彼の心が遠のくことに変わりはない。
けれど救えないのは、そうと解っていながらこの先に進みたいと思っている己の欲望だった。先の口づけと同じように――否、それ以上に深く触れあい、交わって一つになりたい。自覚するたび胸の内を焦がす、苦しいほどに逼迫した欲望。
けれどこの欲望を通せば、間違いなく彼を傷つける。
相反する二つの願いの狭間で動けないミュルメクス。その紅茶に似た色をした頬に、ランビリスが手を伸ばした。
酷く辛そうに硬い輪郭を晒す頬をひどく優しげに撫で、――彼は苦笑する。
「そんな顔すんなよ。……鍵、閉めてくれないか」
ミュルメクスは眼を見開いた。信じられない、という表情で想い人を見下ろす。一つ息を吸い込んで、喘ぐように吐き出した。
「……っ、いいのか?」
「お前がそれを聞くか?」
「鍵を掛けたら、お前は私から逃げられなくなるぞ」
「お前は、」
ふと穏やかな苦笑を解いて、ランビリスは問う。
「今のを無かったことにして俺に逃げて欲しいか?」
そんなわけがない。
「……いいや」
無かったことになど、出来るわけがなかった。
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( 2010/05/05)
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