「タワーで聞いた声、覚えてる?」
切り損ねの白が目立つ爪が、つうと透明なプラスチック板の表面を撫でた。伝導率の変化を察知したセンサが反応し、透明なアクリル板内部に埋め込まれた細い線状の発光体が虹色に光ると、ごく静かな音でモニタが立ち上がった。かつて実家にあった旧式のPCとは段違いの静けさだ。
「種を、撒いて。何度も、何度も、刈り取りに来た、って」
楽器の演奏でもするような、複雑かつ規則性のある動きで貫の指がボードを撫でてゆく。液晶の中で次々に立ち上がるソフト。肩越しに振り返った視線を受け止めて、そのまま久能は見返す。
瞬き一つの間をおいて、そ、と口の中での短い返事と共に、貫の視線がモニタへと戻る。まるで気のない風情に見えるが、こんな態度にはもう慣れた。そう、慣れてしまった。
キーボードを撫でて、立ち上がったソフトから貫が一つのファイルを呼び出す。右カラムにいくつかのショートカットが配置された白い画面に浮かび上がる、幾つもの薄灰色の帯。読み込みと共にその一部が赤く染め抜かれていく。見覚えのない、おそらくは専門用語なのだろうアルファベットの凡例から、かろうじて、DNA、種間保存、共通配列、といった意味の横文字を読み取った。
「俺達何番目だったのかな」
余人への説明の一切を放棄して、ぽつりと投げられた言葉に、久能は僅かに眼を細めた。
「お前はあれを信じるのか」
かく、とモニタの薄明かりの前で、茶色の頭が僅かに傾ぐ。返ったのは、わかんない、という妙に幼げな調子の応えだった。
切り損ねの白が目立つ爪が、つうと透明なプラスチック板の表面を撫でた。伝導率の変化を察知したセンサが反応し、透明なアクリル板内部に埋め込まれた細い線状の発光体が虹色に光ると、ごく静かな音でモニタが立ち上がった。かつて実家にあった旧式のPCとは段違いの静けさだ。
「種を、撒いて。何度も、何度も、刈り取りに来た、って」
楽器の演奏でもするような、複雑かつ規則性のある動きで貫の指がボードを撫でてゆく。液晶の中で次々に立ち上がるソフト。肩越しに振り返った視線を受け止めて、そのまま久能は見返す。
瞬き一つの間をおいて、そ、と口の中での短い返事と共に、貫の視線がモニタへと戻る。まるで気のない風情に見えるが、こんな態度にはもう慣れた。そう、慣れてしまった。
キーボードを撫でて、立ち上がったソフトから貫が一つのファイルを呼び出す。右カラムにいくつかのショートカットが配置された白い画面に浮かび上がる、幾つもの薄灰色の帯。読み込みと共にその一部が赤く染め抜かれていく。見覚えのない、おそらくは専門用語なのだろうアルファベットの凡例から、かろうじて、DNA、種間保存、共通配列、といった意味の横文字を読み取った。
「俺達何番目だったのかな」
余人への説明の一切を放棄して、ぽつりと投げられた言葉に、久能は僅かに眼を細めた。
「お前はあれを信じるのか」
かく、とモニタの薄明かりの前で、茶色の頭が僅かに傾ぐ。返ったのは、わかんない、という妙に幼げな調子の応えだった。
PR
( 2011/12/31)
ブログ内検索