「ケン、」
そう振り返った彼の肩越しには、低い位置に大きな月が浮かんでいた。翳りを帯びた黄金色の真円、それを従えるのではなく、まるで寄り添うように彼は立っていて。
「また来ようね」
さわりと梢を揺らめかせた風がゆるやかに彼の金色の髪を揺らして、けれどそれは太陽の下のように輝くことはなく。
まるで昼間の光の支配から解き放たれたように、彼の姿は穏やかな一枚の絵のように溶けこんでいて、それを目にした瞬間、胸の奥に締め付けられるような疼痛を覚える。
その痛みの名を、ケンは知っている。知っていて、頷いた。頭半分背の高い彼を見上げて、はい、と頷く。
――嘘だ。
そう静かに身の内からあがる糾弾の声を聴いて、ケンはゆっくりと目を閉じた。
――また、なんて無い。
太陽の強い輝きのない夜空の下でも、変わらずカナトはカナトだった。けれどだからこそ――彼を光の下へ戻さなければならない。彼は決して、この弱々しい月の光に甘んじていていい存在ではない。
だからケンはこの気持ちを押し隠して、カナトの影になる。
また、は無いのだ。
あったとしても、その時の二人の関係は、きっと今のものとは違ってしまっている。
ただの友達ではいられない。
今のこの時期、この距離がギリギリだ。ケンは既にそうさとっている。
これ以上は近づけない。――これ以上長くこの位置にいれば、いずれケンは踏み出してしまう。彼にもっと近付こうとしてしまう。
だからケンは望んで影になるのだ。力強い陽光の下にある彼の最も近くで、けれど彼に触れることを許さない位置で。
だからこれは、二人がただの「友達」で居られる最後の夜だ。
そう思ってケンは瞳を開く。
穏やかな月光の元で、ケンの答えに心から微笑む彼を、眼に焼きつけた。
この夜は二度と来ない。
そう振り返った彼の肩越しには、低い位置に大きな月が浮かんでいた。翳りを帯びた黄金色の真円、それを従えるのではなく、まるで寄り添うように彼は立っていて。
「また来ようね」
さわりと梢を揺らめかせた風がゆるやかに彼の金色の髪を揺らして、けれどそれは太陽の下のように輝くことはなく。
まるで昼間の光の支配から解き放たれたように、彼の姿は穏やかな一枚の絵のように溶けこんでいて、それを目にした瞬間、胸の奥に締め付けられるような疼痛を覚える。
その痛みの名を、ケンは知っている。知っていて、頷いた。頭半分背の高い彼を見上げて、はい、と頷く。
――嘘だ。
そう静かに身の内からあがる糾弾の声を聴いて、ケンはゆっくりと目を閉じた。
――また、なんて無い。
太陽の強い輝きのない夜空の下でも、変わらずカナトはカナトだった。けれどだからこそ――彼を光の下へ戻さなければならない。彼は決して、この弱々しい月の光に甘んじていていい存在ではない。
だからケンはこの気持ちを押し隠して、カナトの影になる。
また、は無いのだ。
あったとしても、その時の二人の関係は、きっと今のものとは違ってしまっている。
ただの友達ではいられない。
今のこの時期、この距離がギリギリだ。ケンは既にそうさとっている。
これ以上は近づけない。――これ以上長くこの位置にいれば、いずれケンは踏み出してしまう。彼にもっと近付こうとしてしまう。
だからケンは望んで影になるのだ。力強い陽光の下にある彼の最も近くで、けれど彼に触れることを許さない位置で。
だからこれは、二人がただの「友達」で居られる最後の夜だ。
そう思ってケンは瞳を開く。
穏やかな月光の元で、ケンの答えに心から微笑む彼を、眼に焼きつけた。
この夜は二度と来ない。
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( 2010/10/04)
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