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2024/09/23
 氷解

 相変わらず女性向け要素高含有なので追記に。

 温いですが事後っぽい描写があるのでお気を付けください。
 なんだかいつにも増してグダグダ感が漂いますが……そういう意味でもお気を付けください……

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 無言で首筋に顔を埋められ、反射的に身を竦める。ランビリスがそこが弱いのを知っていて、ミュルメクスは首筋への愛撫を好んだ。ふ、と微かな吐息が掛かるだけで、つい先ほどまで不毛な情交に耽っていた身体は、簡単に快楽の埋み火を燃え立たせる。熱を持った唇が押し当てられ、強く吸い上げられると、それだけで吐息のような声が漏れてしまう。
 じわりと滲みいるように広がってゆく快楽。同時に霞がかかってゆく理性。彼とこんな関係になるまで、まさか自分の理性がここまで脆弱だなどとは思いもしなかった。
 背中へと回されていた手がゆっくりとあがって、うなじを撫でる。その体温の心地良さと、落ち着かない感触、ゆるやかに煽られる熱、その全てを感じながら、ランビリスは情欲と――ほんの少しの落胆の混じった吐息を吐き出した。
 返らぬ応えの代わりに、ゆるゆると続く愛撫――既に一度火を付けられたあとの身体は、先ほどの交合を思えばひどく些細な刺激にさえ悦を感じていて、快楽を煽り立てる手にも唇にも抗えはしないだろう。そうして理性を灼く圧倒的な熱は、やがて最前の問い掛けさえも焼いていくのだ。
 今は答えたくないというのなら、それでもいい。
 彼の語られない過去に踏み入って、傷つけてしまうよりは。
 諦めのいい振りをしてそう己に言い聞かせ、ちくりと胸を刺した一抹の侘びしさを紛らわすように、何も言わずすらりと筋肉の付いた褐色の背中へと腕を回す。
 それに呼応するようにして、ミュルメクスもランビリスを抱き寄せた。縋るような強さで抱き締められて、ランビリスは息を詰める。いっそ痛みを覚えるほどきつく圧迫されて、常とは様子の違う抱擁に、一瞬動きを止めた。
 幸い息苦しいほどの腕の力は程なく緩められ、ランビリスは宙に浮いたままだった手をそっと背中へとおろした。掌の熱を分け与えるように背中を抱く。一体どうかしたのかと問うより先に、ふと、耳元で何事か囁かれた。
「――、」
「……?」
 微かな囁きを聞き取りきれず、まだ首筋に顔を押しつけるようにしたままのミュルメクスの方を確認しようとするが、その動きはうなじに回された腕が後頭部を押さえ込んで封じられる。
 視線だけで彼の方を伺うが、見えるのは滑らかに流れる長い髪と、その乱れた夜色の流れから覗く海のような色の耳飾りだけだ。
 仕草の有無を言わせぬ強さに逆らう気にもなれず、ランビリスはただ囁きの続きを待つ。お互いの息づかいすら聞こえる距離と静けさの中、やがて、低められた声音が呟いた。
「……昔の話だ」
 紡がれた言葉は、最前の問の答えだと――答えようとしているのだと、一拍遅れて気付く。小さく息を呑んだランビリスの耳元で、ミュルメクスは続けた。
「我が国では王が強大な権力を持つ。国庫の使い道から刑罰に至るまで、全ては陛下がお決めになる。陛下が白と言えば黒いものも白くなる、そういう国だ。――だが10年前、その陛下が心を病まれた。……乱心だ」
 誰もそうは言わないがな、そう付け足された言葉も含め、ひどく不穏な気配のする内容に反して、ミュルメクスの声は落ち着いたまま淡々としている。
「詳しい経緯は知らんが、酷く疑心を煽ることがあったそうだ。まず疑われたのが女達だった。不義の疑いと……そうして血を乗っ取ろうとしているのではないかと」
 否、いっそ落ち着きすぎているくらいだ。
「先に言ったような国だ。陛下がこうだと言えば誰も逆らえはしない。女達と…男児は投獄されて、処刑を待つばかりだったが、時の将軍が陛下を諫め、女と子供達は解放された」
 そこで一度、ミュルメクスは言葉を切った。
 次に来る言葉を予想して、ランビリスは目を閉じる。出来れば聞きたくなかったが、聞かなければ起こった事実が変わるわけではない。
「私もその子供の一人だった」
 ふ、と耳元で短く息が吐き出された。温い吐息が、敷布の上に一瞬凝って散っていった。
 頭の隅で、エフィメラが言っていた、殺されかけた、というのはそういう意味だったのだと納得する。だが、彼女の怒りを滲ませた表情に対して、ミュルメクスの語り様はあまりに平坦だった。まるで他人事のように。
 身体を繋げるようになる前にも、こんな事があったことを思い出す。時折ミュルメクスは、まるで心の痛みなど忘れたかのような振る舞いをするのだ。堪えるのではなく、本当に、忘れたように。
 以前は、それが痛々しくて見ていられなかった。慰めることでその寒々しさが和らげばと思っていた。今は――もっと深いところに根ざして、痛みがあるというのならそれごと癒してやりたい、と思う。
 だからランビリスは身の内の声に逆らわず、触れるだけだった腕にわずかに力を込める。青年の身体を抱き締めて、温もりと――何かもっと別のものを分け与えようとする。
 その行為を享受し、だがしばしして、青年は唐突にぽつりと呟いた。
「……キスしたくなった」
 直截な台詞に戸惑いながらも、ランビリスは僅かに腕を緩めるが、ミュルメクスは動こうとしない。いつもならば強引に唇を奪いに来るくらいなのに、いやこれは自分からした方がいいのだろうか、などと思いながらランビリスは背中に回した腕を上げて、長い黒髪を梳く。ゆるゆると頭を撫でて、耳元から頬の辺りを覆った一房を除こうと指を差し入れ髪を掻き上げる――が、唐突に手首を掴まれ、掻き上げる動きは途中で阻止される。
「ミュルメクス?」
「やめてくれ。……今どんな顔をしているか自信がない」
 先ほどの平坦さとは打って変わって、何処か困ったような声音。その様子と先ほどの発言が繋がって、ランビリスは小さく笑う。
「……お前から自信がない、なんて言葉を聞くとは思わなかった」
「……うるさい」
 言葉少なな言い方がまるっきり子供のようで、ランビリスは見えていないのを良いことに笑みを深くする。
「別に、どんな顔してたって笑ったりしないのに」
「……お前の所為だ」
「は?」
 何か咎められるようなことをしただろうかと記憶を探るより先に、ミュルメクスが呟く。
「お前に触れていると、平気なことが平気ではいられなくなる。……泣きたいような落ち着くような、妙な気分になる」
 ……前触れもなく直球で放り投げられた言葉に、なんと返したらいいか言葉を失って、ランビリスは黙り込む。
 その沈黙をどう取ったのか、言ったきり、ミュルメクスは敷布に半ば顔を埋めるようにして黙り込んでしまった。
 誤魔化すようにその背に腕を戻して、ランビリスは気付かれないよう安堵の息を吐き、僅かに紅潮した頬を隠すよう顔を逸らすのだった。
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2010/09/27
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