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2024/09/23

 こっちにおいでよ、という他意のない言葉が素直に嬉しかったのはもう随分と昔の話、今は余計な感情ばかりが混じって、はい、と一つ頷くのにもとぎまぎしてしまう。
 微笑んで示された彼の傍らに腰を下ろすと、ちょうど頭上と二方からは影になる岩の窪みがぴったりと埋まった。子供が秘密基地に選ぶならこんな場所なのだろうかと(実際は外海深くのこんな場所には、子供どころか人が訪れることすら稀なのだが)思いながら、僅かに身を捩っただけで肩の触れあう距離に、我知らず身を固くする。離れようにも、あつらえたような岩の窪みから抜け出すのもおかしな気がして、ケンはざらついた岩に背中を押しつけるようにして小さくなった。
 こういう、いかにも気の置けないところを態度で示すカナトの振る舞いは、今でも決して苦痛ではない。踏み越えられない己の臆病さを、彼の好意で埋めるのは――卑怯だ、と思わないわけではないが――心地いいのだ。
 後、ほんの少しだけ。ケンは視線だけで、野営用の毛布にくるまれたカナトの肩辺り、もう奇麗とは決して言えない薄汚れた毛布から覗く、こちらはくすまない金色の髪、形のいい耳を見遣る。多分、カナトが好意を示してくれるように、ケンがほんの少しだけ手を伸ばせば、もっと近くなれる。それはほとんど確信として、ずっと感じている。
 ――ただ。
 風よけに纏った布の内側で、ゆるりと上げかけた手を、ケンは意識して地に押しつけた。
 これ以上近付いたら、彼に触れるだけでは決して済まなくなる。誤魔化しようのない位置まで近づいて、それでも抱えた物を誤魔化して隠し続けるような器用さは、ケンにはない。
 好き、というのが決して綺麗な感情だけではないと知った日の絶望。敬愛と親愛、そしてそれらを裏切る劣情を孕んだ思慕。搔き混ぜすぎたマーブル模様のように、ぐちゃぐちゃに混じり合って濁りかけた想い。
 ケンは未だ、これをカナトに見せることが出来ないでいる。

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2011/04/24
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