耳の後ろから手を差し入れて、長い黒髪を梳く。刺繍の入った飾り紐を抜き取ると、白い敷布の上に黒い癖のない髪が広がった。
ちくりと滑らかな肌を無精髭が刺したのを、やんわりと咎めるような視線が一瞬送られる。だが、僅かに開かれた唇から漏れた声は叱責ではなく、短い嬌声だ。
胸元と下肢から送り込まれる甘い官能に耐えるように閉じられた青の瞳、打ち振るった頭の動きに合わせて、敷布の上で黒髪がうねった。
普段は王侯然とした態度を崩さない主の媚態を目の前にして、雄の欲望が頭を擡げなかったとは言わない。
切れ切れの喘ぎ上げるその口を塞いで、出来ることならきつくシーツを掴むその手を解いて、もっと別のものに――例えばこの腕に縋らせたいと、そんな思考が頭を過ぎる。
だが、そんな行いを、この主は決して許さないだろう。
そして主に許されざる行為を行う己を、彼自身も許しはしない。
だから彼は、殊更時間を掛けた愛撫に汗ばむしなやかな若い肢体に、丁重に口づけた。
「……殿下」
「――違う」
そろりと呼びかければ、意外な強さで応えが返る。内心で少し驚きながら視線を上げると、快楽と同時に、僅かに厳しげな色を滲ませた青の瞳と眼があった。
「おまえが忠誠を誓ったのは誰だ」
濡れた響きを帯びつつも、甘さのない、芯を失わぬ声は続ける。
「この国か、王家の血か、そうでないならおまえの主人は誰だ?」
時折、主はこうして彼に問う。解りきった問いを、確かめるように、或いは彼に刻み込むように。
「――アラクラーン様」
滅多に呼ばぬその名を口にすると、彼はようやく瞳に宿った険をゆるませた。
しなやかな腕が伸ばされて、彼の硬く癖のある髪をすく。
「そう……おまえの主人は僕だけだ」
ちくりと滑らかな肌を無精髭が刺したのを、やんわりと咎めるような視線が一瞬送られる。だが、僅かに開かれた唇から漏れた声は叱責ではなく、短い嬌声だ。
胸元と下肢から送り込まれる甘い官能に耐えるように閉じられた青の瞳、打ち振るった頭の動きに合わせて、敷布の上で黒髪がうねった。
普段は王侯然とした態度を崩さない主の媚態を目の前にして、雄の欲望が頭を擡げなかったとは言わない。
切れ切れの喘ぎ上げるその口を塞いで、出来ることならきつくシーツを掴むその手を解いて、もっと別のものに――例えばこの腕に縋らせたいと、そんな思考が頭を過ぎる。
だが、そんな行いを、この主は決して許さないだろう。
そして主に許されざる行為を行う己を、彼自身も許しはしない。
だから彼は、殊更時間を掛けた愛撫に汗ばむしなやかな若い肢体に、丁重に口づけた。
「……殿下」
「――違う」
そろりと呼びかければ、意外な強さで応えが返る。内心で少し驚きながら視線を上げると、快楽と同時に、僅かに厳しげな色を滲ませた青の瞳と眼があった。
「おまえが忠誠を誓ったのは誰だ」
濡れた響きを帯びつつも、甘さのない、芯を失わぬ声は続ける。
「この国か、王家の血か、そうでないならおまえの主人は誰だ?」
時折、主はこうして彼に問う。解りきった問いを、確かめるように、或いは彼に刻み込むように。
「――アラクラーン様」
滅多に呼ばぬその名を口にすると、彼はようやく瞳に宿った険をゆるませた。
しなやかな腕が伸ばされて、彼の硬く癖のある髪をすく。
「そう……おまえの主人は僕だけだ」
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( 2011/04/24)
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