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2024/09/23

 ねえメリッサ、かき消えそうなか細い声が囁いた。
「好きな人と一緒にいたい、と思うのはいけない事かしら」
 弦の震えるような声だと思う。張り詰めて、震えて、今にも切れてしまいそうな。それが痛々しくて、メリッサがそっと両掌で包んでいた柔らかな手を握ると、小さく息を呑む気配がした。他にどうしたらいいか解らなかった。夜の空気と同じ温度の肌に、胸の奥の方が締め付けられるような気分が押し寄せてくる。一日中歩いて疲れ果てた足よりも、魔物に負わされた治りきらない傷よりも、そちらの方がずっと苦しくて、リッサは見えないように少し俯いて眉を寄せた。
 一瞬緊張したように硬直した白い手は、それからゆっくりと繊細な指を折りたたんで、メリッサの手を握り返してくる。
「きっと、もう一度逢いたかっただけなの。それがいけないことだなんて、……いけない方法だったなんて」
 独白にも似た呟きに、メリッサは何も言うことが出来ず、ただ胸の内の思いを呑み込む。
 いけないことなんてない、あなたと一緒にいることを禁じられたら、そんなことは耐えられない。だからメリッサは何があってもファーラの側にいるし、それが出来なければきっとどこかが壊れてしまう。
 メリッサの願いも想いも、グートルーネのそれと、きっと本質は変わらない。
 けれど、それを言ってもどうにもならない。白亜の姫君のしたことは何も間違いではない、だから彼女の存在を容認する?
 それでは駄目なのだ。今深都の意向に真っ向から反するようなことをすれば、それこそこの地にファーラの居場所はなくなってしまう。
「私、ずっとここにいたかった。私をここに居させてくれるみんなを守りたかった。私の……国を、護りたかった。なのに……どうして、こんな事になってしまったのかしら」
 私達も、彼女も。
 そのあまりにもうち沈んだ響きに、メリッサは強く首を振る。
「ファーラ様、どうしてなんて仰らないで。ファーラ様が間違ったことをなさったわけではありません。だから、どうか……」
「でもメリッサ、彼女人だったの。貴女も会ったでしょう、彼女、今も人かも知れないの。……けれど私、私達」
「ファーラ様!」
 鋭く遮られて、驚いたようにファーラはぴくりと肩を竦める。
「お願いですファーラ様、言わないで……」
 メリッサの泣きそうな声音に、ファーラの方から項垂れるように力が抜ける。
「……ごめんなさい、私、貴女と一緒にいたい。彼女のことを、人事だなんて思えないの」
 ごめんなさい、もう一度小さく落ちてきた声に、メリッサは首を横に振った。
 だって、おかしい。ファーラもメリッサも、ただあの白い城から一緒に逃げてきたかっただけだ。それなのに、こんな事に巻き込まれてメリッサにとってこの上なく大切なファルファーラが傷ついている。そんなことはおかしい。ファルファーラはこれ以上傷ついたり、穢されたりしてはならない。
 メリッサはそっと息を吸い込む。例えこの願いが深都の怒りに触れようと、或いはフカビト達の思う壺だったとしても、それだけはさせられない。
「グートルーネ様がフカビトだというのなら、真祖を倒しましょう。グートルーネ様をフカビトにしたのが真祖ならば、真祖を殺せば彼女も元に戻れるかも知れません。そうしたらフカビトを恐れることもなくなるし、深都の意向にも反しません。もしそれで駄目なら、もっと深くへ下りて魔を倒しましょう。どれだけ大変でも構いません。グートルーネ様を討たなくていい方法を探しましょう。私、何だってします」
 メリッサはファーラの側にいたい。側にいて、叶う限りの全てから守りたい。彼女を穢す何ものからも遠ざけたい。彼女も、彼女の願いも、全て損なわれてはならない。だから。
「だからファーラ様は、人殺しなんてしないで」

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 金姫とアリス、五層突入目前。
 ネタバレ……というか書けるかも解らないのでネタバレになるのかどうかという話ではあるのですが、この話を機にして、ギルド・オケアノスは「白亜の姫君に血を与えたのは誰か」「その『誰か』を倒しに」、三層の真祖の元へ向かいます。そして真ルートへ。

 フカビトと真祖殺すのは良くて、ヒトは駄目なの? というツッコミ所がある気もしますが、彼女達は下地になってる宗教的に、その辺の区別は明確なんじゃないかなぁ、ヒトはヒト、それ以外はそれ以外。生き物には違いないけど明確な区別がある。
 ヒトだろうがそれ以外だろうが、殺してるのは同じ、と考えるのはビーキン。でもビーキンは種族ではなく仲間か、否かで分けて考えてる。
 生命に序列をつけたがらない理屈、人とそれ以外を分ける理屈の両方を理解して、どっちつかずに微笑むのがシスター。
 人とそれ以外、区別して考えたいんなら区別すれば?って言うのが黒モン子。
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2011/05/08
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