一人残された室内で、乱れた息を整えながら、カナトはぼんやりと閉じたドアを見つめる。
濡れているはずの唇が熱い。火のつきかけた体に宿った熱を何とか逃がそうと、カナトは大きく息を吐いて、もう一度寝台に寝転がった。
……やりすぎた、かも知れない。
先ほどの自分の行動を思い出し、今更ながらに羞恥心が芽生える。僅かに朱が差した頬ごと、自らの腕で視界を閉ざして、カナトはもう一度息を吐いた。
だって、仕方がなかったのだ。特別な感情を寄せる相手に抱き竦められ、押し倒されて、――例え相手が同性だったところで、それが何を示すのか解らないほど、カナトも初心ではない。
カナトは、ケンが自分に恋愛感情を抱いていることを知っている。ケン自身それを自覚していて、あえて口に出さないことも。
けれど、多分ケンは知らないのだ。そんなケンにカナト自身が特別な感情を抱いていることも、それ故にケンの態度をもどかしく思っていることも。
だから、行為と欲望を態度で示されて、有り体に言うなら、調子に乗った。だが冷静になって考えれば、カナトからの好意を示す方法は他に幾らでもあったはずなのだ。
やりすぎた。もしくは先走りすぎた。
ふと思う。ケンは、―― 一体どこまで望んでくれているのだろう。
キスを仕掛けたのは、カナトの方だった。ケンはそれに応えてくれたが――
あの口づけを無理矢理終わらせたときのケンの、どこか思い詰めたような表情は、一体何を意味していたのだろう。
もしケンが。今日のような行為を望んでいなかったとしたら。それこそ抱き合うだけのような、緩い交接だけを望んでいたら?
――だとしたら、自分は彼に何をやらせようとしていたのか。
ずるりと頭を擡げてきた自己嫌悪をどうにか宥めながら、カナトは着替えるべく、やっと熱の引きはじめた体を起こした。
与えられた自室の壁に背中を預け、ずるずると座り込みながらケンは重く溜息を吐いた。
未だに燻り続ける熱は、ちっとも引く様子を見せない。これほど自己嫌悪に駆られているというのに、男の体というのは正直だ。
ケンは、カナトのことが好きだ。それが一体いつ頃芽生えたのかは定かではないが、カナトのことを恋愛対象として愛している。
ケンは己の感情に自覚的だ。これがどれだけ厄介な感情で――そして、世間から見て異常な感情か、理解しているつもりだ。
だから封じてきた。
そして封じきれなくなっている。
報われることのない感情だ。――否、まったく報われていないかと言ったらそんなことはなく、カナトは時折ケンに向けて「好きだ」と言ってはくれる。けれどカナトの言う「好き」は、そこにいるだけで、寄り添うだけで満たされる、そういう「好き」だ。
――そんな感情だったら、どんなに良かったか。
けれどケンの感情はそうではない。もっと熱く、暗く、生々しくも浅ましい感情。同じ「好き」という言葉に込められた、あまりにもかけ離れた意味と感情。
カナトは優しい。誰にでも。だから今回のことも、おそらくは多少ずれたところのある彼が親愛の情を示そうとしたか――あるいは、ケンの感情に気付いて慰めようとしたか。
その嬉しくも悲しい優しさにつけ込んで、想いを遂げようとした己の浅ましさに、吐き気がした。
濡れているはずの唇が熱い。火のつきかけた体に宿った熱を何とか逃がそうと、カナトは大きく息を吐いて、もう一度寝台に寝転がった。
……やりすぎた、かも知れない。
先ほどの自分の行動を思い出し、今更ながらに羞恥心が芽生える。僅かに朱が差した頬ごと、自らの腕で視界を閉ざして、カナトはもう一度息を吐いた。
だって、仕方がなかったのだ。特別な感情を寄せる相手に抱き竦められ、押し倒されて、――例え相手が同性だったところで、それが何を示すのか解らないほど、カナトも初心ではない。
カナトは、ケンが自分に恋愛感情を抱いていることを知っている。ケン自身それを自覚していて、あえて口に出さないことも。
けれど、多分ケンは知らないのだ。そんなケンにカナト自身が特別な感情を抱いていることも、それ故にケンの態度をもどかしく思っていることも。
だから、行為と欲望を態度で示されて、有り体に言うなら、調子に乗った。だが冷静になって考えれば、カナトからの好意を示す方法は他に幾らでもあったはずなのだ。
やりすぎた。もしくは先走りすぎた。
ふと思う。ケンは、―― 一体どこまで望んでくれているのだろう。
キスを仕掛けたのは、カナトの方だった。ケンはそれに応えてくれたが――
あの口づけを無理矢理終わらせたときのケンの、どこか思い詰めたような表情は、一体何を意味していたのだろう。
もしケンが。今日のような行為を望んでいなかったとしたら。それこそ抱き合うだけのような、緩い交接だけを望んでいたら?
――だとしたら、自分は彼に何をやらせようとしていたのか。
ずるりと頭を擡げてきた自己嫌悪をどうにか宥めながら、カナトは着替えるべく、やっと熱の引きはじめた体を起こした。
与えられた自室の壁に背中を預け、ずるずると座り込みながらケンは重く溜息を吐いた。
未だに燻り続ける熱は、ちっとも引く様子を見せない。これほど自己嫌悪に駆られているというのに、男の体というのは正直だ。
ケンは、カナトのことが好きだ。それが一体いつ頃芽生えたのかは定かではないが、カナトのことを恋愛対象として愛している。
ケンは己の感情に自覚的だ。これがどれだけ厄介な感情で――そして、世間から見て異常な感情か、理解しているつもりだ。
だから封じてきた。
そして封じきれなくなっている。
報われることのない感情だ。――否、まったく報われていないかと言ったらそんなことはなく、カナトは時折ケンに向けて「好きだ」と言ってはくれる。けれどカナトの言う「好き」は、そこにいるだけで、寄り添うだけで満たされる、そういう「好き」だ。
――そんな感情だったら、どんなに良かったか。
けれどケンの感情はそうではない。もっと熱く、暗く、生々しくも浅ましい感情。同じ「好き」という言葉に込められた、あまりにもかけ離れた意味と感情。
カナトは優しい。誰にでも。だから今回のことも、おそらくは多少ずれたところのある彼が親愛の情を示そうとしたか――あるいは、ケンの感情に気付いて慰めようとしたか。
その嬉しくも悲しい優しさにつけ込んで、想いを遂げようとした己の浅ましさに、吐き気がした。
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( 2010/07/31)
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