「……ひ、ぁ」
乾いた熱い指が、何の気まぐれか皮膚の薄い場所に触れる。それだけでみっともない声が漏れて、羞恥のあまり消えたくなった。
思わずケンが顔を背けると、上の方で小さく笑う声がする。
「くすぐったい?」
「…っ……ぅ……」
言葉と同時に対と撫でるように指が動いて、上がりそうになった声を、ケンは危うく喉奥で押し殺した。
本気なのか揶揄っているのか、いずれにしても質の悪い主人の台詞が耳の辺りの産毛を撫でていって、それですら背筋にぞくりと、悪寒とはまた別の感覚を生んでゆく。
狂っている、と内心が囁く。仕えるべき主人の目の前で、恥ずかしくはないのかと。お前のその想いの浅ましさを、主人に晒すつもりかと。
「ケン?」
思考の淵に落ちかけたケンを訝しむように名を呼ばれ、はっと現実に引き戻される。思わず視線を上げれば、覗き込んでくる鮮やかな若草色の瞳と目があった。思わず呟くようにその名が漏れた。
「カナト様……」
思うよりもずっと掠れた声音で紡がれた声に、カナトは僅かに苦笑に似た色を滲ませて、手を伸ばしてくる。ゆるゆると頬の辺りをなぞった指が、ふと頤にかかる。
あ、と思うよりも早く、カナトの顔が下りてきた。思わず息を呑んだケンと、吐息の混じり合う距離で、カナトが囁く。
「眼、閉じて」
言われるまま、操られるように瞳を閉じて、――ああ、と幸福と嘆きの入り交じった吐息を吐く。
これは、越えてはいけない一線だ。解っているのに、ケンはいつだってカナトの声には逆らえない。そして何より――浅ましくも期待している自分を、ケンはそろそろ抑えきれなくなっている。
従順な反応に満足したのか、ふ、と笑うような吐息の後、柔らかな感触が唇に触れた。
それを感じた瞬間、かっと体の奥に熱が灯る。背徳と、それを上回る幸福感に、理性が削り取られてゆく。体の奥に灯った疼きに戸惑い、僅かに身じろぐと、舌先で控えめに唇の形を辿られた。反射的に緩んだ唇の間からするりと入り込んできた舌は、一度口内をまさぐってから、器用にケンの舌を絡めとる。熱く柔らかなその感触が苦しいほど心地よくて、ケンは泣きたいような気分でそれに応えた。
――狂っている、そう囁く声が聞こえる。知っている、ケンは胸の内でそう呟いた。
この盲目的な忠誠も、主人であるカナトに対する邪恋も、そしてカナトに触れられて狂おしいほどに快感を感じているこの身も。全て全て狂っている。
狂っていると思いながら、それでもケンは何一つ止めることが出来ない。
――ケンが本当に、心の底から求めていることは、ただ一つ。カナトに尽くし続けること。
例え錯覚だとしても、求められ、或いはこうして施されているこの瞬間は、己の全てが彼に捧げられていると思えるから。
ぼんやり浮かんだ想いも、やがて理性と共に解かされてゆく。快楽に身を浸しながら、ケンは口づけに酩酊してゆく。
この行為が、間違っているかどうかなんて、そんなことはもうどうでもよかった。
乾いた熱い指が、何の気まぐれか皮膚の薄い場所に触れる。それだけでみっともない声が漏れて、羞恥のあまり消えたくなった。
思わずケンが顔を背けると、上の方で小さく笑う声がする。
「くすぐったい?」
「…っ……ぅ……」
言葉と同時に対と撫でるように指が動いて、上がりそうになった声を、ケンは危うく喉奥で押し殺した。
本気なのか揶揄っているのか、いずれにしても質の悪い主人の台詞が耳の辺りの産毛を撫でていって、それですら背筋にぞくりと、悪寒とはまた別の感覚を生んでゆく。
狂っている、と内心が囁く。仕えるべき主人の目の前で、恥ずかしくはないのかと。お前のその想いの浅ましさを、主人に晒すつもりかと。
「ケン?」
思考の淵に落ちかけたケンを訝しむように名を呼ばれ、はっと現実に引き戻される。思わず視線を上げれば、覗き込んでくる鮮やかな若草色の瞳と目があった。思わず呟くようにその名が漏れた。
「カナト様……」
思うよりもずっと掠れた声音で紡がれた声に、カナトは僅かに苦笑に似た色を滲ませて、手を伸ばしてくる。ゆるゆると頬の辺りをなぞった指が、ふと頤にかかる。
あ、と思うよりも早く、カナトの顔が下りてきた。思わず息を呑んだケンと、吐息の混じり合う距離で、カナトが囁く。
「眼、閉じて」
言われるまま、操られるように瞳を閉じて、――ああ、と幸福と嘆きの入り交じった吐息を吐く。
これは、越えてはいけない一線だ。解っているのに、ケンはいつだってカナトの声には逆らえない。そして何より――浅ましくも期待している自分を、ケンはそろそろ抑えきれなくなっている。
従順な反応に満足したのか、ふ、と笑うような吐息の後、柔らかな感触が唇に触れた。
それを感じた瞬間、かっと体の奥に熱が灯る。背徳と、それを上回る幸福感に、理性が削り取られてゆく。体の奥に灯った疼きに戸惑い、僅かに身じろぐと、舌先で控えめに唇の形を辿られた。反射的に緩んだ唇の間からするりと入り込んできた舌は、一度口内をまさぐってから、器用にケンの舌を絡めとる。熱く柔らかなその感触が苦しいほど心地よくて、ケンは泣きたいような気分でそれに応えた。
――狂っている、そう囁く声が聞こえる。知っている、ケンは胸の内でそう呟いた。
この盲目的な忠誠も、主人であるカナトに対する邪恋も、そしてカナトに触れられて狂おしいほどに快感を感じているこの身も。全て全て狂っている。
狂っていると思いながら、それでもケンは何一つ止めることが出来ない。
――ケンが本当に、心の底から求めていることは、ただ一つ。カナトに尽くし続けること。
例え錯覚だとしても、求められ、或いはこうして施されているこの瞬間は、己の全てが彼に捧げられていると思えるから。
ぼんやり浮かんだ想いも、やがて理性と共に解かされてゆく。快楽に身を浸しながら、ケンは口づけに酩酊してゆく。
この行為が、間違っているかどうかなんて、そんなことはもうどうでもよかった。
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( 2010/07/03)
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