「おい」
ぞんざいに声を掛けると、予想に反してあっさりと常磐緑の制服に身を包んだ少年は足を止めた。濃い蒼緑色の前髪の間から、冷ややかな鬱金色の視線が肩越しに返される。振り返るでもなく、ただ視線だけで続きを促す、漣一つ無い水面のようにつんと取り澄ました横顔。
「あんたが庶務の――ケンケンって奴?」
実のところ、訊くまでもなくカイは目の前の少年が「剣(つるぎ) 剣(けん)」という名であることを知っていた。一号生でありながら生徒会に所属し、更にはこの学園の創設者である鳳凰院一族とも繋がりがある彼は、一部では「水鏡」の二つ名をもって呼ばれる。学園に入学した直後から紲晶石の在処と、学園内の実力者を洗ったカイは、当然ケンについてのある程度の情報も頭に入れていた。
だから多少からかって、その取り澄ました態度が何から来るものなのか探ってやろうとしたのだが――少年は眉を顰めたかと思うと、突然きっと眦を吊り上げた。と、思うと
「ケンケンなどと気やすく呼ぶな!」
今までの態度が嘘のような大音声で叫ばれて、カイは一瞬面食らう。なんだ、こいつ?噂じゃ二つ名の通りクールな奴だって話だったろ?
態度だけは平素と変わらず、けれど内心首を傾げるカイを他所に、こちらに向き直った少年は、更にカイを睨みつけながら続ける。
「この名を呼んでいいのは、」
「――カイ君?」
台詞の途中で割って入った悠揚迫らぬ声に、何故だかケンが言葉を詰まらせる。聞き覚えのある声の主を誰だったかと一瞬探して、すぐに記憶と合致したカイは、うんざりしながら声のした方を見遣った。
「やあ」
にこりといつもの人好きする笑顔を浮かべながら、教室から姿を現したのは、生徒会長のカナトだ。カイの入学試験の縁で知り合っただけの仲ではあるが、カイとしては学園中に顔の利く人物にツテがあるのは色々と便利なので、微妙な距離の交流を続けている。
「か、カナト様」
先ほどまでの態度は何処へいったというのか、体ごと向き直って姿勢まで正すケンとは対照的に、カイは呆れた風に肩を竦めた。
「どこからでも出てくるな、あんた」
「生徒会長たるもの、学園の隅々にまで目を配らないといけないからね。今日はケンケンも一緒なのかい?」
「お、」
その一瞬口ごもった声が、誰の物なのか最初カイは解らなかった。
「おやめください、そのような、ケンケンなどと……もう子供でもないのですし……」
少年が困ったように眦を下げた。声からは先ほどまでが嘘のように硬さが消え失せている。語気は確かに困ったように勢いがなかったが、その実嫌というだけではなく、例えるなら、そう――照れのような物が見え隠れする。
カイはその様子をぽかんと眺めた。口が半開きになったままだったのに気付いて、途中で慌てて閉じる。誰だこいつ?
「いいじゃないか、可愛くて」
あ、何か今凄いこと言ったぞ、この天然(なのかどうかは知らないが)王子。
「……でも、流石に子供の頃の渾名は嫌か」
「いえ!決して嫌などとは」
貴方の言葉に嫌な物などあるはずがない、そんな必死さで言い募るケンに、カナトは微笑みかける。
「よし、じゃあこれからは人前で呼ぶのは避けよう。それで良いかい? ――ケン」
含みを持たせたような最後の間がわざとだったのか、それともただ単に言い忘れを付け足しただけだったのかは判らない。判らないが、とりあえずその声音はケンを直撃したらしかった。
さっと頬を赤らめるケンを、カイはちらりと横目で見遣る。
……こいつは……
「代わりに、ケンも校内では、そういう改まった話し方は止めてくれないかな。学問や修業に関しては、皆平等なんだからね」
「はい、以後……これから気をつけます」
「うん、それがいいね」
言い直したケンにもう一度笑って、カナトはカイに向き直る。
「さて、今日はカイ君と――そのお仲間に話があるんだ。だからカイ君は僕と来てくれないかな。ああ、ケンは生徒会の方の仕事を優先してくれるかい? 生徒会室は使えないから、ちょっと歩くよ」
「ああ。けど……お仲間?」
「うん、」
背後からの視線をひしひしと感じながら、既に歩き出していたカナトの後をついて尋ねると、カナトは目元と口元だけを使って笑う。そうして低められた声が密やかに落とされた。
「天ヶ原の彼等に――ね」
ぞんざいに声を掛けると、予想に反してあっさりと常磐緑の制服に身を包んだ少年は足を止めた。濃い蒼緑色の前髪の間から、冷ややかな鬱金色の視線が肩越しに返される。振り返るでもなく、ただ視線だけで続きを促す、漣一つ無い水面のようにつんと取り澄ました横顔。
「あんたが庶務の――ケンケンって奴?」
実のところ、訊くまでもなくカイは目の前の少年が「剣(つるぎ) 剣(けん)」という名であることを知っていた。一号生でありながら生徒会に所属し、更にはこの学園の創設者である鳳凰院一族とも繋がりがある彼は、一部では「水鏡」の二つ名をもって呼ばれる。学園に入学した直後から紲晶石の在処と、学園内の実力者を洗ったカイは、当然ケンについてのある程度の情報も頭に入れていた。
だから多少からかって、その取り澄ました態度が何から来るものなのか探ってやろうとしたのだが――少年は眉を顰めたかと思うと、突然きっと眦を吊り上げた。と、思うと
「ケンケンなどと気やすく呼ぶな!」
今までの態度が嘘のような大音声で叫ばれて、カイは一瞬面食らう。なんだ、こいつ?噂じゃ二つ名の通りクールな奴だって話だったろ?
態度だけは平素と変わらず、けれど内心首を傾げるカイを他所に、こちらに向き直った少年は、更にカイを睨みつけながら続ける。
「この名を呼んでいいのは、」
「――カイ君?」
台詞の途中で割って入った悠揚迫らぬ声に、何故だかケンが言葉を詰まらせる。聞き覚えのある声の主を誰だったかと一瞬探して、すぐに記憶と合致したカイは、うんざりしながら声のした方を見遣った。
「やあ」
にこりといつもの人好きする笑顔を浮かべながら、教室から姿を現したのは、生徒会長のカナトだ。カイの入学試験の縁で知り合っただけの仲ではあるが、カイとしては学園中に顔の利く人物にツテがあるのは色々と便利なので、微妙な距離の交流を続けている。
「か、カナト様」
先ほどまでの態度は何処へいったというのか、体ごと向き直って姿勢まで正すケンとは対照的に、カイは呆れた風に肩を竦めた。
「どこからでも出てくるな、あんた」
「生徒会長たるもの、学園の隅々にまで目を配らないといけないからね。今日はケンケンも一緒なのかい?」
「お、」
その一瞬口ごもった声が、誰の物なのか最初カイは解らなかった。
「おやめください、そのような、ケンケンなどと……もう子供でもないのですし……」
少年が困ったように眦を下げた。声からは先ほどまでが嘘のように硬さが消え失せている。語気は確かに困ったように勢いがなかったが、その実嫌というだけではなく、例えるなら、そう――照れのような物が見え隠れする。
カイはその様子をぽかんと眺めた。口が半開きになったままだったのに気付いて、途中で慌てて閉じる。誰だこいつ?
「いいじゃないか、可愛くて」
あ、何か今凄いこと言ったぞ、この天然(なのかどうかは知らないが)王子。
「……でも、流石に子供の頃の渾名は嫌か」
「いえ!決して嫌などとは」
貴方の言葉に嫌な物などあるはずがない、そんな必死さで言い募るケンに、カナトは微笑みかける。
「よし、じゃあこれからは人前で呼ぶのは避けよう。それで良いかい? ――ケン」
含みを持たせたような最後の間がわざとだったのか、それともただ単に言い忘れを付け足しただけだったのかは判らない。判らないが、とりあえずその声音はケンを直撃したらしかった。
さっと頬を赤らめるケンを、カイはちらりと横目で見遣る。
……こいつは……
「代わりに、ケンも校内では、そういう改まった話し方は止めてくれないかな。学問や修業に関しては、皆平等なんだからね」
「はい、以後……これから気をつけます」
「うん、それがいいね」
言い直したケンにもう一度笑って、カナトはカイに向き直る。
「さて、今日はカイ君と――そのお仲間に話があるんだ。だからカイ君は僕と来てくれないかな。ああ、ケンは生徒会の方の仕事を優先してくれるかい? 生徒会室は使えないから、ちょっと歩くよ」
「ああ。けど……お仲間?」
「うん、」
背後からの視線をひしひしと感じながら、既に歩き出していたカナトの後をついて尋ねると、カナトは目元と口元だけを使って笑う。そうして低められた声が密やかに落とされた。
「天ヶ原の彼等に――ね」
ケンケンはカナトさんに対してだけデレだと良い。
というかまだ彼等のカードすら手元にないんですが、何書いてるんだろう私。
これで実際カード手に入って、呟き見て、公式で呟かれて、イメージと違ったらどうするつもりなんだろう。がっちり印象ついてると、後々脳内修正大変なんですけどねぇ。
まあそれもリアルタイムの醍醐味か。
ところで私は、カナトはケンにとっての太陽であればいいとか頭の沸いたことを素で思っています。
だってほら、カード名、「太陽王子カナト」ですし。
というかまだ彼等のカードすら手元にないんですが、何書いてるんだろう私。
これで実際カード手に入って、呟き見て、公式で呟かれて、イメージと違ったらどうするつもりなんだろう。がっちり印象ついてると、後々脳内修正大変なんですけどねぇ。
まあそれもリアルタイムの醍醐味か。
ところで私は、カナトはケンにとっての太陽であればいいとか頭の沸いたことを素で思っています。
だってほら、カード名、「太陽王子カナト」ですし。
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( 2010/06/26)
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