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2024/09/23

「……薬泉院は、冒険者がメインだけど、民間の患者も来てさ」
 薄紫色の瞳を眠たそうに瞬かせて、ぽつぽつと語られる言葉を、コーディは無言で聞いてやる。否、無言で聞いてやることしかできない、というのが正解だ。
 頷いて見せようにも、既に眠たそうに半分閉じられ、どことなく焦点の合っていない薄紫の瞳は、机の木目を滑るばかりでこちらに向けられてはいない。
 珍しくもくたりとテーブルに懐いている背中を認めて顔を覗き込んでみれば、既にこの有様だった。
 机の上に酒精の類はなく、置いてあるマグカップの中身も、見た限りはただの水だ。――ただの水だからこそ、見当がつく。睡眠薬だ。
 アスターも飲めないわけではないはずだが、夢見の悪そうな日は寝酒はしないと言っていたのを思い出す。
「でも、薬泉院は大体救急しか診る余裕はなくて他は他院に回すから、来るのは大怪我の冒険者か、……重症の民間人なわけ」
 その「大怪我の冒険者」になったことのある身として僅かに苦笑を零したが、アスターはそれに気付いた様子もなく、物憂げに瞳を伏せた。
「でもさ、そうやって運ばれてくる奴らって、大体、もう、助からないんだ。外から見たら何でもなくても、調べてみると、もういろいろガタガタになってる。特に、開いてみてからもうダメだって解った、なんてのもあってさ。……そういうのは最悪だ」
 睡魔の誘いに屈しかけてほとんど平坦になっていた声が、僅かに震えた。
「未だちゃんと生きてんのに、俺達には助けられない」
 テーブルの縁に掛かっていた指が、微かに木目を引っ掻く。かり、と爪が凹凸に引っかかる微かな音がなんだか痛々しくて、コーディは上からそっと手を添えた。それで何が変わるというわけではないけれど、それでも手の中の指からはやがて力が抜けていった。
「……向こうで医者目指してた頃もさー、こんなのあったな、って思って。そういうの、どうしても駄目で辞めちゃったんだけど」
 うん、と見えていないことを承知でコーディは頷く。一度はその道を諦めた彼が、もう一度医師としての道を選んだその理由には、コーディ自身が深く絡んでいる。
「……俺もいつか、こんなのに慣れんのかな…………」
 ぽつり、と呟いて、アスターはゆるりと瞬く。
「慣れても、慣れなくても、……メディック失格、って気がするけど」
 半ば自嘲気味な声。思わずそれは違うと言いかけて、――ひゅ、と喉の奥で息が鳴る。けれどそれだけだった。
 こんな時、声を失ったことが堪らなく悔しい。そんなことはないと、彼の自身を否定する言葉を、それは違うと言ってやりたいのに、伝える術がない。

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 2ギルド、触角メディックと灰鳥。
 うちの灰鳥は喋りません。歌いません。……や、意思ではなく不可能で言うべきなんですけど。

 一晩明けたらタイトルがなんか、こう、もの凄くオタクっぽかったので、思わず書き直してしまった。ごめんなさい。
 ていうかジアゼパムは眠剤系だと記憶していたんだけど、手元の本を紐解いたらてんかんのお薬って書かれt(倒れ伏し

 アトラスクラスタの方ならおなじみかも知れませんが、サンド・マンは眠りをもたらすとされる妖精。子供の瞼に眠りの砂をかけてゆくのだそうで。
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2010/08/06
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