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2024/09/23

「見えますか」
 既に宵の星をちりばめた空を背景にして、闇に紛れそうな色をした装束の輪郭は淡く、少年の姿をぼんやりと融かしている。装束を纏わない顔と、それから手首から先、日焼けの少ない痩せた腕だけが夕刻の空に浮かび上がる。ぴんと伸びた人差し指の指し示す先を追って、アキツは夜空の一点へと眼を凝らす。
「2番目の星です」
 どうですか、という声に、アキツは眼を細めることで応える。綺麗に並んだ七つの星の、その端から2番目。言われなければ疑ってもみないだろうその星を睨んで、思わず眉間に皺を寄せそうになった気配を察したのだろう。視界の端で、ヤンマが僅かに首を傾げた。
「――では、少し、視界をずらしてください」
「ずらす?」
「別の位置を見るんです。見える範囲の端の方に、あの七つ星が入るようにする」
 例えば、と少年は伸ばしていた手をひらりと返す。暗がりの中ぼんやりと、白い手が挙がる。
「俺を見る」
 ぴたりと顔の横で止まった手の、すぐ横でこちらを見ている濃紺の瞳とかちりと視線が合う。そのまま、と彼は言った。
「眼は動かさないで――見ている方向も変えちゃいけません。そのまま、眼の端の方に気をつけるんです」
 視線も動かすな、と言われ、些か途方に暮れながら、アキツは少年を見つめる。視界の端には確かに柄杓の形に並んだ七つの星が見えているが、さてどうしたものか。気を抜くと星の方を見てしまいそうで、言われたとおり、アキツはヤンマを凝視するようにしながら、そろそろと視界の端に意識を向ける。
 白い光の点にしか見えないそれは、ふとした拍子に位置さえ見失いそうになる。
 明るめの星の連なり、柄杓のような形をした一つの星座。その柄から数えて2番目、ほとんど同じ場所に輝く星2つ。――2つ?
「幾つに見えます?」
 今まで一つだと思っていたそれがはっきりと2つに見えたことに些か驚きながら、2つだ、と返すと、ようやくアキツの視界の真ん中に立っていた少年は僅かに頬を緩ませる。
「それは良かった。何でもこれが見えないと弓兵になれない国もあるそうで」
 俺は一つにしか見えないんですけどねぇ。
 残念、と言うよりはいかにも不思議だというような声で言って、ヤンマは帰り道を先導するように踵を返す。その背で黒い毛先が一つ跳ねたのを眺めながら、先ほどまでの自分は一体どんな顔をしていたのかと羞恥にも似た感情が一瞬胸を過ぎったが、すぐにあぶくの弾けるように消えていった。

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 眼の端の方が星がよく見えるというのはガチな話。
 理由は忘れたけど明暗を見分ける視細胞が中央より多いとかなんとかだったような。

 若ショとポニシノ。多分アモロよりも前の話。
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2011/08/13
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