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2024/09/23

知ってるんだよ。
 お前が時々夜中部屋から出て行ってること。
 その度に香の香りや酒精の匂いをさせて帰ってくること。
 誰のところに行っているかなんて最初は詮索もしなかったけど、(あいつは主人が好きだから、審神者に会いに行っているのかとも最初は思ったし)、でも気づいちゃったんだよ。
 廊下ですれ違った時に、覚えのある香の匂いを嗅いだことがあった。
 ねえ、お前は一体どうしたの。

 いつもどおりす、と障子が開く音で安定は目を覚ました。夏も盛りとなったこの時期、夜になったって上着なんて入りやしない。けれどもいつの間に着替えたのだろう、部屋着に鳴ってそこへ立つ影に、安貞は布団の中から呟いた。
「また、あの人の所行くんだ?」
 声の効果は絶大だった。あからさまに過多を震わせた影は、開きかけた障子を後ろ手にピシャリと閉めて安貞の方へと向き直る。
「何、言ってんのさ」
 加州のいつもの仮面が剥がれた声は、安定でもなければ滅多に聞くことが出来ない。
「別に。俺はお前が何考えてるのかわかんないだけ」
 安定は布団から状態を起こして、加州を見つめる。紅と青の視線が、言い知れぬ空気の中で絡んだ。
「そんなにあの人に入れ込んでるわけ」
「違う」
「じゃあなんでわざわざ隠れて出てったりするの」
 疚しいところがなければ、堂々と晩酌に行くとでも言って出て行けばいいのだ。その晩酌の相手が己でないのには何処か悔しいような、置いて行かれたような寂しさがあったが、そんなものは安定の勝手な執着だ、ということを、安定はきちんと理解している。
「なんで夜明けに帰ってきたりするの、一体何話してるのかしら無いけどさ、お前はさ、」
 もうそんなふうなことがもう気軽にできるの。

「お前はあの人のこと忘れちゃったの」

 ひゅ、と加州が息を呑むのが聞こえた。
「そんなことない」
「でも実際他の人と仲良くしてるじゃん。ねえ、加州、覚えてる?あの人と最後に合った日のこと。俺とお前が離れ離れになった日のこと」
「忘れるわけない! なんでそんなこと訊くんだよ、俺が、おれがどれだけあの人の側に残りたかったか知ってるくせに……ッ!」
「じゃあなんでそうやって他の人に擦り寄っていけるんだよ! 愛してもらいたいってお前の気持ちはわかるよ。だって一つ間違ったら捨てられるのは俺の方だったかもしれないんだから。でもさ、愛してくれるなら誰でもいいの? 自分の主人じゃなくても?」
 いつからお前はそんなに歪んじゃったのさ。
 一息に言い切って、安定はやっと黙りこむ。今まで抱えていた泥濘のような思いをすべてぶつけられた相手は、障子戸のところで細かく震えている。
「そんなんじゃ…ない。そんなんじゃ…」
 言って、加州はしばらくそこで震えていたが、おもむろに後ろ手で障子を開ける。
「清光、」
「違う。顔、洗ってくる」
 ぱちんと音を立ててしまった障子に向けて、安定は深い深いため息をつく。
 つい、己の黒い感情をぶつけてしまったことに、わずかな後悔があった。だって自分がどうやったって沖田くんを忘れることが出来ないように、加州にもそうあって欲しかった。それは紛れも無く、安定のエゴだ。
 部屋を出て行く時に加州の目尻に光った雫は多分安定の見間違いではないだろう
 遠くで井戸の水を使う音がかすかに聞こえた。
 多分加州はしばらく部屋には戻ってこないだろう。
 あの人のことを思って泣いてくれればいいのに。そうしたらまた二人で底のない沼の中に居られるのに。

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2015/01/31
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