陸に上がった鯨たちには、星の重力は重すぎた。
彼等には柔らかな水の抱擁が必要だった。
「…随分詩的だね」
「俺ロマンチックなの好きだもん。競争に負けて海に帰った、よりよっぽど綺麗じゃね?」
「綺麗な方がいいなんて言ってたらいつか間違う」
「いいよ。俺正しい事なんて見えないし」
彼等には柔らかな水の抱擁が必要だった。
「…随分詩的だね」
「俺ロマンチックなの好きだもん。競争に負けて海に帰った、よりよっぽど綺麗じゃね?」
「綺麗な方がいいなんて言ってたらいつか間違う」
「いいよ。俺正しい事なんて見えないし」
PR
( 2014/06/04)
ねえ、と彼女は囁く。
都市には分厚い海水を通した仄暗い光が注ぎ、夜は星の光も届かない青い闇に閉ざされた。上の天候次第では、日の光は一切届かず、昼でも夜と同じような闇があちこちにわだかまる。そんな日には僅かに棲まう肉持つ人々のために、エーテルのランプが灯された。
この都で時を告げるのは太陽でも鶏でもなく、神殿に備え付けられた星時計だった。
低い海鳴りと、密やかな海流の流れ。それらに異質に混じる、歯車の擦れる音。ゆっくりと回る巨大な金属の環。
ねえ、と微かな声で彼女は囁く。
心ってどこにあると思う?私は一体この体のどこに居ると思う?魂とか心とか呼ばれる物はどこに収まっているのかしら。心臓?脳?それともこの体全部にばらまかれているのかしら。そうしたら、あなたは私のどこまで愛してくれる?
寝台の上で身を寄せ合って、微睡みに意識を浸しながらそんなことを語る。
彼女の語ることの半分は俺には理解できない。けれどそう言うと、彼女はそれで良いわ、と静かに言う。
心臓が止まってしまっても、すぐに体全部が死んでしまうわけではないわ。呼吸が止まれば脳は死んでしまうけれど、血液に溶けた酸素が数時間は臓器を生かしてくれる。筋や皮膚が死んで腐るにはもっと時間がかかるわ。
ねえ、私の魂がこの体全部に宿っているとしたら、私が本当に死んでしまうのはいつ?
この体に埋め込んだ機兵のパーツにも、魂は宿るかしら?
悲しい話に俺は答えることが出来なくて、彼女はそれでも、仕方ない人、と密やかに笑う。
海の底に沈んだ都、時を止めた街で、本当に時が止まればいいのに。
都市には分厚い海水を通した仄暗い光が注ぎ、夜は星の光も届かない青い闇に閉ざされた。上の天候次第では、日の光は一切届かず、昼でも夜と同じような闇があちこちにわだかまる。そんな日には僅かに棲まう肉持つ人々のために、エーテルのランプが灯された。
この都で時を告げるのは太陽でも鶏でもなく、神殿に備え付けられた星時計だった。
低い海鳴りと、密やかな海流の流れ。それらに異質に混じる、歯車の擦れる音。ゆっくりと回る巨大な金属の環。
ねえ、と微かな声で彼女は囁く。
心ってどこにあると思う?私は一体この体のどこに居ると思う?魂とか心とか呼ばれる物はどこに収まっているのかしら。心臓?脳?それともこの体全部にばらまかれているのかしら。そうしたら、あなたは私のどこまで愛してくれる?
寝台の上で身を寄せ合って、微睡みに意識を浸しながらそんなことを語る。
彼女の語ることの半分は俺には理解できない。けれどそう言うと、彼女はそれで良いわ、と静かに言う。
心臓が止まってしまっても、すぐに体全部が死んでしまうわけではないわ。呼吸が止まれば脳は死んでしまうけれど、血液に溶けた酸素が数時間は臓器を生かしてくれる。筋や皮膚が死んで腐るにはもっと時間がかかるわ。
ねえ、私の魂がこの体全部に宿っているとしたら、私が本当に死んでしまうのはいつ?
この体に埋め込んだ機兵のパーツにも、魂は宿るかしら?
悲しい話に俺は答えることが出来なくて、彼女はそれでも、仕方ない人、と密やかに笑う。
海の底に沈んだ都、時を止めた街で、本当に時が止まればいいのに。
例えば、この瞬間君に何かを告げるなら。
じわりと胸の内に生まれた熱に名前を付けるとするなら。
いつもそこまで考えて、急に黙り込んだ僕を怪訝そうに振り返る君に、何でもないと笑う。
そうしてこの熱の正体なんて忘れたふりをして、いつもの日常に戻ってゆく。
僕は未だに、これが友愛なのか恋愛なのか決めかねている。
じわりと胸の内に生まれた熱に名前を付けるとするなら。
いつもそこまで考えて、急に黙り込んだ僕を怪訝そうに振り返る君に、何でもないと笑う。
そうしてこの熱の正体なんて忘れたふりをして、いつもの日常に戻ってゆく。
僕は未だに、これが友愛なのか恋愛なのか決めかねている。
僕たちは、対であるもの、という称号を与えられた、ただの他人だ。
顔の造作も
(親子ほどもある見た目の差)
体の形も
(前衛の体と後衛の体、)
声も
(重低音と、戯けた軽さ)
精神も
(忠誠を誓った兄貴と、態度を決めない僕と)
血の型でさえ、僕らは違う。
一致しない。同じになれない。
なら、一体何で繋がればいい?
顔の造作も
(親子ほどもある見た目の差)
体の形も
(前衛の体と後衛の体、)
声も
(重低音と、戯けた軽さ)
精神も
(忠誠を誓った兄貴と、態度を決めない僕と)
血の型でさえ、僕らは違う。
一致しない。同じになれない。
なら、一体何で繋がればいい?
解ってた。
受け入れてもらえないことくらい。
解ってた。
欲しくて堪らないこの気持ちがいつか決壊することは。
解ってた。
これ以上を望んだら全部壊れるって。
全部解ってたんだ。
解っていて奪った。
これが寄り添って満足出来るような感情だったら、どんなにか良かったか。
受け入れてもらえないことくらい。
解ってた。
欲しくて堪らないこの気持ちがいつか決壊することは。
解ってた。
これ以上を望んだら全部壊れるって。
全部解ってたんだ。
解っていて奪った。
これが寄り添って満足出来るような感情だったら、どんなにか良かったか。
( 2008/04/05)
ブログ内検索