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2024/09/23

 密やかに広まった噂だけは聞いていたから、彼がやけに神妙な面持ちで神殿から出てきたときも、やはりそうだったかと納得しただけだった。
 少年らしい顔に、正義感と義務感とを滲ませた彼は、歩み寄るリヴィエラに気付くと、一瞬年相応の驚いた顔をしてから、慌ててぺこりと会釈をする。
 そんなに畏まることはないのだけれど、礼儀のなった良い子だ。アフラノールの教えの賜物だろう、そんなことを思いながら、マキシウスのすぐ側まで来て立ち止まったリヴィエラは微笑みを浮かべた。
「調和神様が討伐者に選んだのは、貴方でしたか」
 確かめるために問えば、顔を上げた彼は真摯な様子で、はい、と頷く。
 未だ若くて、瑞々しいような力に溢れた彼は、長くを生きてきた自分達よりはずっと疑うことを知らないのだろう。
 遙か古の時代に起こった出来事を、この若い神は知らない。神々が掲げた正義も、箱の中の者達のことも、古い神々は口にしたがらないだろうから。
 けれど、知らずには居れないだろう。知れば考えずには居られないだろう。彼は物事に対してとても誠実だから。
 だからきっと、彼にとってはとても難しい役目になるはずだ。
 苦労するだろうし、傷つくかも知れない。でもそれで彼は、新しいことを知るに違いない。

 けれど、リヴィエラはただ、そうですか、と微笑むにとどめた。
 これは誰かが言うことではない。彼が自分で手に入れる経験で、知るべき事だ。
 ああけれど、これだけは彼に伝えておこう。

 医神であるリヴィエラは傷も病も癒すことができる。けれど、リヴィエラの力の及ばないところにいる者は癒せないし、死者を蘇らせることもできない。摂理を逆転させることは神にでさえ出来ないのだ。
 古い古い記憶は、今でも思い出す度胸の奥に鈍い疼痛を生じさせる。

「神といえども不死身ではないのですから、気をつけるのですよ」

 古い戦いを知らない彼は、快活にはい、と返事をした。

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2008/12/01
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