海には悪戯な生き物たちが沢山住んでいて、船を惑わせたり、嵐を呼んだりする。でもそういう海の上に出てくる者と違って、海の底に住んでいる者も居て、そういう者は、海の上で死んだ漁師や船乗りの魂を籠に詰めて、深い海での明かりにするのだそうだ。
特に嵐の夜には魂が怖がってひゅうひゅうと悲しい声で泣くのだそうで、そんな声は聴いたことがないと笑ったけれど、彼があんまり真剣に言うものだから、ある日信じられないくらい海が凪いだ日に、沖の急に深くなるところまで出て、海の底へと潜ってみた。
たなびく海藻の種類が変わって、傍らを行く魚の種類が変わって、それでも更に深みを目指して、太陽の光が届かなくなって、目指す方向には何も見えなくて、やがて魚の姿が消えて、だんだん息が苦しくなって、とても暗くて冷たくて寂しくて、怖くなって底に辿り着く前に戻ってきてしまった。
ずっと深いところにぼんやりと明かりを見た気もするけれど、幻だったのか、光る生き物だったのか、それとも彼の言うとおり船乗り達の魂だったのか、……解らないから結局誰にも話さなかった。
箱の中は、深い深い海の底に似ていた。
特に嵐の夜には魂が怖がってひゅうひゅうと悲しい声で泣くのだそうで、そんな声は聴いたことがないと笑ったけれど、彼があんまり真剣に言うものだから、ある日信じられないくらい海が凪いだ日に、沖の急に深くなるところまで出て、海の底へと潜ってみた。
たなびく海藻の種類が変わって、傍らを行く魚の種類が変わって、それでも更に深みを目指して、太陽の光が届かなくなって、目指す方向には何も見えなくて、やがて魚の姿が消えて、だんだん息が苦しくなって、とても暗くて冷たくて寂しくて、怖くなって底に辿り着く前に戻ってきてしまった。
ずっと深いところにぼんやりと明かりを見た気もするけれど、幻だったのか、光る生き物だったのか、それとも彼の言うとおり船乗り達の魂だったのか、……解らないから結局誰にも話さなかった。
箱の中は、深い深い海の底に似ていた。
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( 2008/09/14)
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