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2024/09/23

「何やってるの」
 空に浮かぶ島の端も端、縁に面している所為で今にも下界に崩れてゆきそうな広間の真ん中へ向けてルキアは言った。
 話しかけられた当の本人は、巨大な金属の塊を座らせて、更に周りに得体の知れない工具をぶちまけている。その十数メートル先は既に崩れて床はなく、覗き込めば限りなく良い見晴らしが広がる。いつ崩れるかも解らない床の上での作業は、翼を持たない彼女には些か蛮勇に過ぎよう。
 その彼女は今持っていた工具をぞんざいに床に放り投げると、少し離れたところにあった奇妙な形をしたドライバーを手に取るついでに、ちらりとルキアに視線を寄越す。そのまま得体の知れない機械へと向き直った背中から、ただの整備だわさ、と声がした。
 それ以上は言う気がない、または構っている暇はないと言外に語る白衣の背中に、ルキアは不満げに鼻を鳴らしてもう一言問いかける。
「それが北の遺跡で見つけたヤツなわけ?」
 多少こちらの手の内をばらしてみたつもりだったのだが、ドロシーは相変わらずせわしなく手を動かしながら、大きな帽子の載った頭を少し傾けただけだった。
「……なんだ、知ってたの?」
「北に遺跡があるって教えたのは私なんだけど?」
 そう言えばそうだったわ、けらけらと笑って、初めてドロシーはまともにルキアを振り返った。その顔には、悪戯を見つかった、ではなく悪戯の共犯者を見つけた、というような表情が浮かんでいる。もしここにいるのがルキアではなくディルクルムだったら、あいつはもの凄く嫌そうな顔をしただろうなとルキアは思った。
「でも不正解。これは遺跡にあった記録の調査結果を基にして作った、ただのレプリカだわさ。本格的な発掘と本物の調査は、」
 一度勿体ぶるように言葉を切って、ドロシーは、にい、とトラブルメーカーの笑みを浮かべた。

「この子が完成した、今日これから」

 ルキアはそれを呆れた気分で見つめる。今は膝を付いているから解らないが、ドロシーの背後にある機械はドロシーの背丈よりも随分大きい。これだけのものが一日やそこらで作れるわけはないから、遺跡の調査とやらは随分前に行われていたのだろう。しかもおそらく、複数回にわたって。まったくこんな小娘が――と言っても見た目はさほどルキアと変わらない――どうやって他の羅震王達の目を欺いたのやら。
 けれど、これからは今までのようにはいくまい。王我血族でも屈指の戦闘力を誇ったオデオンの戦死、更にそれに次ぐ十二星卿の敗北。十二星卿については、元から羅震王の指示に従わぬ者達ということで、敗北による不安の声は小さかった(むしろ皇帝の守護を任せて大丈夫なのかという声が上がったくらいだ)が、オデオンの戦死は大きかった。王我血族を統率する柱が一つ欠けて、おかげで今この島の空気はピリピリと不安定に張り詰めている。たぶん、すぐに地上への攻撃が決断されるはずだ。
「どうせアタシは戦力にならないから関係ない。好き勝手やるんだわさ」
 ルキアの顔色を読んだようにドロシーが言い、ルキアが言い返す。
「やらせてもらえると思ってるわけ?」
「やらせてもらう、んじゃなくやるの。阻止できるものならすれば良いんだわさ」
 絶対の自信を滲ませて、ドロシーは言い切る。
「それに、アンタはアタシを止めるようなヤツじゃない」
「……ま、確かにそうだけどね」
 言い当てられて、ルキアは肩を竦める。自分だって好き勝手したいのだ。同じように思っている誰かを止める気などさらさら無い。
 耳に残る高い声でドロシーは笑って、だからアンタのことは気に入ってるんだわさ、と言った。

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2009/08/03
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