「ここに居たのか」
伸び放題の草を踏み分ける足音が止まり、気付いていないわけはないだろうに、己より幾分か低い声を聞いてから、やっと彼は振り返る。
陽光に暖められる前のひやりとした空気は、樹木の吹きだす水の気を濃く含んで少し重い。夏に向かう頃独特の空気をまとわりつかせて、ミロクは肩越しに義兄を見上げる。そのミロクの肩から向こうには、未だ睡りの中にあるつましいながらも整えられた町並みが見えた。
その町並みを見やって、インドラはわずかに眼を細める。
「残ろう、なんて考えてはいないだろうな」
「まさか」
軽く笑って前へと向き直りながら、同行いたしますよ、と言う。けれどインドラにはそれもどこか上の空の声に聞こえて、だから何も言わずに踏み出した。
一歩、二歩、少し大股に踏み出せば、あっという間に義弟との距離は縮まって、ほとんど隣に並べてしまう。
「お前が来ないとナユタが悲しむ」
「…………」
「私もだ」
だから、来い。
インドラの視線の先、ミロクはしばらく黙っていたが、やがて町並みへ据えていた瞳をふと閉じた。その仕草に滲んだ哀惜は果たして義弟のものだったのか、義弟に映ったインドラ自身のものだったのか。
囁くような肯定の返事を聞いてから、インドラはそっと義弟と町並みから視線を逸らした。
伸び放題の草を踏み分ける足音が止まり、気付いていないわけはないだろうに、己より幾分か低い声を聞いてから、やっと彼は振り返る。
陽光に暖められる前のひやりとした空気は、樹木の吹きだす水の気を濃く含んで少し重い。夏に向かう頃独特の空気をまとわりつかせて、ミロクは肩越しに義兄を見上げる。そのミロクの肩から向こうには、未だ睡りの中にあるつましいながらも整えられた町並みが見えた。
その町並みを見やって、インドラはわずかに眼を細める。
「残ろう、なんて考えてはいないだろうな」
「まさか」
軽く笑って前へと向き直りながら、同行いたしますよ、と言う。けれどインドラにはそれもどこか上の空の声に聞こえて、だから何も言わずに踏み出した。
一歩、二歩、少し大股に踏み出せば、あっという間に義弟との距離は縮まって、ほとんど隣に並べてしまう。
「お前が来ないとナユタが悲しむ」
「…………」
「私もだ」
だから、来い。
インドラの視線の先、ミロクはしばらく黙っていたが、やがて町並みへ据えていた瞳をふと閉じた。その仕草に滲んだ哀惜は果たして義弟のものだったのか、義弟に映ったインドラ自身のものだったのか。
囁くような肯定の返事を聞いてから、インドラはそっと義弟と町並みから視線を逸らした。
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( 2009/07/14)
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