ええと妖怪パラレルの酔月の続き……です。
ベリやんと師匠で会話しているだけの話です。……いや会話すらしていないかもしれないですが。台詞が少ない。
ところでこのパラレルだと、もうかなり年季が入っている師匠と、ようやっと成熟しはじめたベリアールみたいな、師匠がうわてな、神様と力ある魔物っていう関係なんですけれどもどうなんでしょうこれ。
ベリやんと師匠で会話しているだけの話です。……いや会話すらしていないかもしれないですが。台詞が少ない。
ところでこのパラレルだと、もうかなり年季が入っている師匠と、ようやっと成熟しはじめたベリアールみたいな、師匠がうわてな、神様と力ある魔物っていう関係なんですけれどもどうなんでしょうこれ。
絵面的には罰当たりにも、社を取り巻く回廊に二人は腰を下ろしていた。導いたのはライセンであるから、罰も何もあった話ではない。人に見られでもすれば都合が悪いが、意図しない限り二人の姿は只人に見ることは叶わない。
未だに少し慣れない、この土地の酒杯である盃を、ベリアールは傾ける。彼の元居た土地の物とは原料も見た目もまったく異なるが、かぐわしい風味は上等な酒であることを示している。飲み干せば濃い酒精が喉を焼いていった。
本来ならばもっと味わって呑むべきものなのだろうが、酒瓶の中身はさほど長くは保つまい。この人ならざる者両名は、酒好きでこそ無かったがワクだのうわばみだのと呼ばれる類ではあった。もちろん種としての名前ではなく。
しかし、とベリアールは思う。酒精を嗜むことからも、この龍神もまったく酔わぬわけではないのだろうが、十数年の付き合いのうちでも、ベリアールは未だかつてライセンがそうと判るほど酩酊しているのを見たことがない。かく言うベリアールも強い自覚はあったし、人前で酷く酔ったこともなかったが、それは彼が己の限界を知っており、自制しているからだ。尤も、ライセンに限って自制しないというのはあり得ないだろうが……否、人の姿を取ってはいても、矢張り龍の類をヒトや己と同じ種の基準で測るのは間違いか……
「――今宵の月は」
囁きに等しくとも、龍神の声はよく通る。
無言の静寂を破った彼は、そのままぽつりと言葉をついだ。
「どうにも心騒がせる」
盃を片手に天の月を仰いで言ったライセンと、その横顔に落ちた鋭利な影を、ベリアールは意外な思いで見つめた。
夜の魔性達は月の満ち欠けに大きな影響を受ける。アスタロットが良い例だ。彼女ほどの力があればその限りではないが、満月で正気を失う者もいる。そして今夜の月はどこかおかしかった。必要以上に、魔性達を活発にする――昂ぶらせる。
だが、強い影響を受けるのは力のない小さな魔性や、一部の種族だけだ。ベリアールとてまったく影響を受けぬわけではないが、月の昂ぶりなど意思で押さえ込めるし、正気を失うようなこともない。力を持つ者ほど影響は受けにくく、故にこの龍神ともなれば月の光に揺らぐことなど無いと思っていた。
ついと視線が動いて、紅い視線がこちらを捉える。
「少しばかり見直した、と言わぬでもない」
「……は?」
一瞬何を言われたのか解らなかった。というか解ってはいたが、あまりに唐突且つ常にはない類の言葉が、あまりに信じがたかった。
「常にはない狂月であった故。……よく御すものよ」
それでか。顔を見に来たというのは。
「惑わされて力を振るうようならば、腕づくも覚悟していたが、見くびって居ったようだ」
つがれた言葉に、ベリアールは些か気分を害す。
見直したと言われても、元の評価がこれでは喜べるわけもない。
「己も月に酔っているにしては大層な自信だ。それとも龍神とは皆そんなものなのか」
小さな苛つきをそのまま皮肉にして口に出したのは、ベリアールもこの月夜に酔わされているからだ。けれど常よりもライセンが饒舌なのは、彼もまた月に酔っているからだとベリアールは気付いていた。
正気を蝕む月光の元、それでも彼がベリアールをおとない、話し相手として誘ったのは、昂ぶる己の心を律した上で、更に余裕があるからだ。
それが少しだけ憎たらしいと思う。
「我が身とて元より神として生まれ落ちたわけではない。生来のものでは無かろう」
皮肉をあっさりと流して、龍神はまた盃を傾けた。
未だに少し慣れない、この土地の酒杯である盃を、ベリアールは傾ける。彼の元居た土地の物とは原料も見た目もまったく異なるが、かぐわしい風味は上等な酒であることを示している。飲み干せば濃い酒精が喉を焼いていった。
本来ならばもっと味わって呑むべきものなのだろうが、酒瓶の中身はさほど長くは保つまい。この人ならざる者両名は、酒好きでこそ無かったがワクだのうわばみだのと呼ばれる類ではあった。もちろん種としての名前ではなく。
しかし、とベリアールは思う。酒精を嗜むことからも、この龍神もまったく酔わぬわけではないのだろうが、十数年の付き合いのうちでも、ベリアールは未だかつてライセンがそうと判るほど酩酊しているのを見たことがない。かく言うベリアールも強い自覚はあったし、人前で酷く酔ったこともなかったが、それは彼が己の限界を知っており、自制しているからだ。尤も、ライセンに限って自制しないというのはあり得ないだろうが……否、人の姿を取ってはいても、矢張り龍の類をヒトや己と同じ種の基準で測るのは間違いか……
「――今宵の月は」
囁きに等しくとも、龍神の声はよく通る。
無言の静寂を破った彼は、そのままぽつりと言葉をついだ。
「どうにも心騒がせる」
盃を片手に天の月を仰いで言ったライセンと、その横顔に落ちた鋭利な影を、ベリアールは意外な思いで見つめた。
夜の魔性達は月の満ち欠けに大きな影響を受ける。アスタロットが良い例だ。彼女ほどの力があればその限りではないが、満月で正気を失う者もいる。そして今夜の月はどこかおかしかった。必要以上に、魔性達を活発にする――昂ぶらせる。
だが、強い影響を受けるのは力のない小さな魔性や、一部の種族だけだ。ベリアールとてまったく影響を受けぬわけではないが、月の昂ぶりなど意思で押さえ込めるし、正気を失うようなこともない。力を持つ者ほど影響は受けにくく、故にこの龍神ともなれば月の光に揺らぐことなど無いと思っていた。
ついと視線が動いて、紅い視線がこちらを捉える。
「少しばかり見直した、と言わぬでもない」
「……は?」
一瞬何を言われたのか解らなかった。というか解ってはいたが、あまりに唐突且つ常にはない類の言葉が、あまりに信じがたかった。
「常にはない狂月であった故。……よく御すものよ」
それでか。顔を見に来たというのは。
「惑わされて力を振るうようならば、腕づくも覚悟していたが、見くびって居ったようだ」
つがれた言葉に、ベリアールは些か気分を害す。
見直したと言われても、元の評価がこれでは喜べるわけもない。
「己も月に酔っているにしては大層な自信だ。それとも龍神とは皆そんなものなのか」
小さな苛つきをそのまま皮肉にして口に出したのは、ベリアールもこの月夜に酔わされているからだ。けれど常よりもライセンが饒舌なのは、彼もまた月に酔っているからだとベリアールは気付いていた。
正気を蝕む月光の元、それでも彼がベリアールをおとない、話し相手として誘ったのは、昂ぶる己の心を律した上で、更に余裕があるからだ。
それが少しだけ憎たらしいと思う。
「我が身とて元より神として生まれ落ちたわけではない。生来のものでは無かろう」
皮肉をあっさりと流して、龍神はまた盃を傾けた。
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( 2008/12/11)
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