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2024/09/23
 摂氏
 神羅

「クロノス」
「なん、」
 窓を閉めて振り返りかけたその瞬間を狙い澄ましたように、頬を冷たい感触が包む。いつの間にか手袋を脱ぎ捨てたメルキオールはクロノスの両頬に掌を押し当てたまま、おかしいな、と呟いた。
「何がだ」
「熱いのか冷たいのかよく解らない」
「冷えすぎて感覚が狂っているんだろう」
「そういうものなのかい?」
 熱すぎるのにも冷たすぎるのにも似ているのに痺れているようだ、台詞と共に人肌の限界まで冷えた手が、露出した喉まで下りてくる。覚悟していれば驚くような冷たさでもないので、クロノスは好きなようにさせた。
 男にしては少し細めの指が顎骨の辺りをぎこちなく撫でてゆく。クロノス、とメルキオールが呼んだ。
「このまま縊り殺されるんじゃないか、と思ったことは?」
「……それは冗談のつもりか?」
「もし冗談ではなかったら?」
 言いながら、更なる温もりを求めてか指が襟元まで下りてきたので、慌ててクロノスは手首を握って寛げる手を阻止する。握ったそこも矢張り同じように冷えていた。
 じんと伝わる冷たさにクロノスは僅かに眉を顰める。冷えすぎだ。
 その表情をどう取ったのか、苦笑の中に悪戯っぽさを含ませてメルキオールは小さく笑う。
「心配しなくても」
 手の甲にやんわりと冷えた指先が触れた。
「まだ上手く手が動かないから無理な話だ。……なんと言ったかな、こういうのを」
「……“悴(かじか)む”?」
「それだ」
 一瞬もどかしげな色をした瞳が、意を得たりとばかりに楽しげに細まる。だが、悴むという単語はクロノスにしてみれば日常的に使うごく当たり前の言葉で、特に目新しくも何ともない。だが、おそらく飛天では滅多に使わない言葉なのだろう。
 飛天は物理的な寒さとは縁のない国だ。南方にあることと、豊富な火山の地熱のおかげで飛天には冬でも厳しい冷え込みが訪れることは少ない。例え寒波が訪れても、翼持つ民達は身内に宿した魔力の炎で暖を取ることが出来る。
 いろいろな意味で寒さに不慣れなのだ。
 そう思ったら未だ冷えたままの手が妙に哀れに感じて、おそらくこれはお門違いな感情なのだろうし、メルキオールに対しても失礼だと思いながら、しかしクロノスは冷たい手を両手で包み込んだ。

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2008/01/01
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