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2024/09/23
 神羅

 あ、

 と、思った。
 体が動かなかった。こんな時にどうするべきかは知っていたのに。
 自分に向けられた視線ではなかったのに、その暗い目を見た瞬間足が竦んだ。

 時間の流れが突然緩やかになったかのように、
 その誰かは白刃を翳して突き進んでくる。
 滑らかな石で出来た広間の床、
 そのごく目立たない石の継ぎ目を革の靴が踏み越えた瞬間、
 反射的に片足を後ろに踏み出した。
 それでも目が離せない。
 ステンドグラスの弱い光を凶器がきらりと弾いて、
 視界の端で何かが動いた気がした、
 

 次の瞬間、背後から回された腕が肩を拘束して強い力で後ろに引く。
 何が起きたのかを認識する前に、僕の視界は塞がっていた。 
「アレックス」
 酷く優しげな声で父は僕の名前を呼んだ。
「見てはいけないよ」
 掌の暖かさはしっかりと僕の視界を塞いでいた。

 けれど、
 高い金属音が五回。
 四回目はは舌打ちとともに一際高く、そして少し遅れて、床に落ちて跳ね返るように最後の一回。
 それに被って空を切るような鋭い音と、短い呻き声。

 最初に一つ、ぴしゃ、
 次いでびしゃびしゃと大量の水が落ちる音。
 少し遅れて重い何かが床に叩きつけられる音。
 興奮した男の荒い息ももうきこえない。
 人のざわめき。
 ご苦労、と誰かが言った。一拍してから、父の声だと気付いた。

 視界を塞がれても。
 この場で何が起こったのかは明白で。

 鼻先を掠めた鉄錆の匂いに思わず鼻を覆った僕に、お前にはまだ早いんだ、と父の声が囁いた。 

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 「視たい物だけ~」の対。アレックス編です。
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2008/01/12
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