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2024/09/23
 神羅

「お兄様、それはなあに?」
「これ、ですか?」
 何の変哲もない、アルマの掌にさえ納まりそうな、小さな小石だ。
 灰色のごつごつとした表面を晒すそれは、燃えるような色合いの赤瑪瑙文鎮の横で、いかにも不釣り合いに浮いていた。
 桜材で出来た机の上、アレックスは指先でころりと小石を転がす。
「雷の卵、だそうですよ」
「…………」
 アルマの不審そうな視線に気付いたのだろう、いえ、とアレックスは苦笑して手を振った。
「もちろん、本物ではありませんよ。こうしてみるとただの石ですけど、割ると中にアゲートやオパールが入っているのだそうです」
「……それで、『雷』?」
 アルマは首を傾げる。中に宝石が入っている、というだけなら、何も雷なんて恐ろしげな名前を付けなくても、もっと綺麗な名前が幾らでもありそうなのに。そんな心中を読んだのか、アレックスははい、と微笑んだ。
「アゲートには筋が出るでしょう? 模様が中心から外へ向かって波紋のように拡がってゆくのが、まるで光が弾けるようだから、と」
「ふうん……じゃあこの卵の中にも、そういう模様の宝石が入っているのね」
「そうなりますね」
「…………開けないの?」
「これを、ですか?」
「割ってみないと、中身が解らないでしょう?」
「そうですね……でもいいんです。これは、割らないでおきましょう」
「どうして?」
「いつか、本当に雷が生まれてきたら面白いでしょう?」
 冗談めかしていたけれど、そう言って笑った顔は、次に何が起きるか知っているときの顔だった。

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2010/04/19
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