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2024/09/23

 花屋さんの2~3年前の話。
 書きためてから……と思ってたんですが、それをやってるとテンション的に書き上がらないらしいことが解ってきたので、宣言が嘘になっちゃいましたがとりあえずその2。
 気候と建築相関萌え。

 しかし本当にすっきりしない山のない話になりそうです。

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「まったく最近は余所者の食中毒が多くてねぇ!この時期の貝は火を通さないで食ったらいけないってのを知らない奴が多すぎるんだ。 わたしゃ爺さんの痛風だの、坊主の扁桃腺だの診てのんびり暮らしたいんだがね」
 年齢をまったく感じさせない足取りで、老婆は石畳を進んでゆく。
 その後ろをごとごとと――これは整備が悪いのではなく、敷かれた石畳の凹凸の所為である――荷車を押しながらドルナーは相づちを打った。
「多いですか、食中毒」
「多いが、この時期ならまあまあな数かね。いいことだよ、こちとらあんなでかい図体の奴ら、裏返すだけでも大変なんだから」
 良いながら老婆はやれやれと首を振る。
「ここいらで妙な病人が出るとね、大体はうちに来るんだ。まともなトコへ連れてくべきかどうか、婆さんに判断してもらおうってね。まったく、図体に見合った脳味噌が入ってるなら、腹に入れるものくらい気をつけて欲しいよ」
 口は悪いが、ハキハキとした物言いの所為か、あまり嫌味には感じないのが、彼女の不思議なところだ。
「頼られてるんじゃないですか」
「止しとくれ、ただの便利屋扱いさ」
「それでも、……あ、お手間かけさせてる俺が言うのも何ですけど、急患とか大丈夫ですか?」
 実に今更な問いではあったが、彼女を待っている人が居るのなら手間を取らせることは出来ない。だが、イムランは大したことはないというように首を振った。
「平気だよ。近いからね。言ったろ、この辺りは私の庭みたいなもんで、――そら、そこが私の"家"さ」
 老婆が顎をしゃくって示した上り坂の頂点、その先は丁度建物と地面が途切れて、転落防止の細い金属の柵が生えている。その柵の向こう側、見下ろす位置に白っぽい建物が建っていた。
 異国風の建築なのだろうか、入り口付近のホール状の屋根は元老院に少し似ている。規模はありふれた民家を二つ繋げた程度と言ったところだろうか。海都の建物は強い日差しを避けるように窓が小さく作られているのが特徴なのだが、つまし気な庭に沿った窓はどれも大きめに採られている。建物と土地の高低に挟まれ、日差しの遮られやすいこんな場所でもなければ無理のある造りだ。
「変わってるだろ」
 見透かしたように言うイムランに、肯定するのも失礼な気がして、ドルナーは曖昧に返事を返す。
 変わっている、というよりは、らしくない建物、というのが正直な感想だった。
 白い外観の割りに医院という硬質な印象の薄い建物は、どちらかというともっとくつろいだ……そう、保養施設のような印象だ。広くとられた窓から垣間見える中の様子も、穏やかだ。誰かと親しげに談笑する老人、足を吊られながら本をめくる男性、眠っているらしい少女――
(……ああ、)
「何か妙なものでもあったかい?」
 そんな風に問われて、慌ててドルナーはイムランの方へと視線を戻した。そんなにまじまじと見てしまっていただろうかと、少々気まずい思いで答える。
「そういうわけでは……ただ、開放的な造りだな、と」
「闇医者なんて言うから、もっとこっそりやってるもんだと思っただろ?」
「いえ、」反射的に否定して、口ごもる。「……すみません、正直に言えば、イメージとは違いました」
「ハハ!素直で良いねぇ」
 皮肉とも感嘆とも付かない台詞で笑って、イムランはゆっくりと歩き始める。
「かかるのが闇だろうが正規の医者だろうがヤブだろうが、患者に必要なものは同じさ。コソコソ隠れて穴蔵ん中にいたんじゃ腐っちまう。まあお天道様が浴びらんない病気のヤツもいるが……そういうのにしたって、外の風は必要さ」
 そうだろ、と背を向けたままイムランが言う。
 ふと、脳裏に白い花の姿が浮かんだ。それが意識に昇ってしまう前に、そうですね、とドルナーは応じた。
 薄い花弁を揺らして、中心に大きなさく果を抱えるケシの花。
 一生温室から出ず、硝子越しの光を浴びて育つ花の姿を胸の奥に仕舞い込んで、ドルナーはイムランの後を追った。
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2010/10/11
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