晒された皮膚の薄い――生き物として弱い部分を己のものでない指が撫でていくと、それだけで身体が震えた。強張る四肢には未だ快楽はなく、本能的な怯えだけがある。
竦む体を誤魔化そうと、ランビリスは意識して深く息を吸い込んだ。それを、情欲の籠もった――けれど一抹の醒めた理性を残した青い瞳が見下ろしている。
「……何故あんな事を言った?」
囁くような声に思わず視線を上げた。予想していたよりも静かな響きの声が、先ほどの自ら逃げ道を断った言葉を指しているのだと察して、ランビリスはその青い色を見上げる。ゆるりと一度瞬いて、思考の水槽の中から言葉を拾った。
「……そうしたい、と思ったから」
「――本当に?」
疑問の調子で発せられた声と共にあらぬ場所に触れられ、びくりと体が竦んだ。そんな反応を予想していたのだろう、断定の調子で声が降る。
「怯えている」
否定できずにいると、ふとミュルメクスが顔を寄せてくる。頬に添えられた手は目を逸らすことを許さず、興奮と愁いを帯びた青に真正面から見据えられる。
「私は……お前を傷つけるような真似はしないと誓った」
だが実際はこうだ、と彼は俯いて言葉を落とす。
「怯えるお前を組み敷いて、それでも止まれずにいる。お前が逃げれば、私は何もできなかった。……何故あんな事を言った」
欲しいという欲望と、傷つけたくないという想いと。その二つを宿した瞳が閉じられて、囁きが落ちる。
「例えお前が同情のつもりでも……今度こそはもう、逃がしてやれない」
余裕の無さそうな声が耳元で囁いて、その響きにランビリスはそっと息を吐く。
「ミュルメクス、……それは、違う」
「どう違う……!」
「同情なんかじゃない」
はっきりと言い切った声に、更に言い募ろうとしていたミュルメクスが言葉を途切らせる。
「確かに俺は……俺には、お前が俺を好きだって言うような激しい感情はないかもしれない。けど、それでも」シーツに落ちたままだった手を、褐色の背中に回す。思うよりも広いそれを両腕で抱き締め「……こうしてお前を抱き締めたいと思う」
最初に告白されたときには、戸惑うばかりだった。その後も拒んだり、距離を置いたり、ネガティブな対応を取ってきたことは百も承知だ。
けれど、それでも好意を示し続けてくれたミュルメクスの行動にいつの間にか情を感じ始め、先ほどの彼の酷く辛そうな切なげな表情を見て――観念した。自分の気持ちに。
常識という名のフィルターを取り払ってみれば、自分の気持ちはもはや明白だった。好きだ。側にいてやりたい。そんな悲しい表情をさせたくない。――ただ、自分がそうして傍らにあることで失われてしまう可能性を恐れていた。
けれど、もう――潮時なのだ。それがどんな結末を呼ぶとしても、一度気付いてしまった感情を忘れることは出来ない。
「俺も男だから、好きな相手が欲しいって気持ちは解る。だから……少し怖いし、お前みたいに激しく求められはしないけど……お前が、欲しいって言ってくれるのは……今は嫌じゃないんだ」
ミュルメクス、名を呼んで更に言い募ろうとした言葉は、強い抱擁に遮られた。
「もういい」
「ミュル、」
「もういい、黙っていろ。……でないと手加減できなくなる」
竦む体を誤魔化そうと、ランビリスは意識して深く息を吸い込んだ。それを、情欲の籠もった――けれど一抹の醒めた理性を残した青い瞳が見下ろしている。
「……何故あんな事を言った?」
囁くような声に思わず視線を上げた。予想していたよりも静かな響きの声が、先ほどの自ら逃げ道を断った言葉を指しているのだと察して、ランビリスはその青い色を見上げる。ゆるりと一度瞬いて、思考の水槽の中から言葉を拾った。
「……そうしたい、と思ったから」
「――本当に?」
疑問の調子で発せられた声と共にあらぬ場所に触れられ、びくりと体が竦んだ。そんな反応を予想していたのだろう、断定の調子で声が降る。
「怯えている」
否定できずにいると、ふとミュルメクスが顔を寄せてくる。頬に添えられた手は目を逸らすことを許さず、興奮と愁いを帯びた青に真正面から見据えられる。
「私は……お前を傷つけるような真似はしないと誓った」
だが実際はこうだ、と彼は俯いて言葉を落とす。
「怯えるお前を組み敷いて、それでも止まれずにいる。お前が逃げれば、私は何もできなかった。……何故あんな事を言った」
欲しいという欲望と、傷つけたくないという想いと。その二つを宿した瞳が閉じられて、囁きが落ちる。
「例えお前が同情のつもりでも……今度こそはもう、逃がしてやれない」
余裕の無さそうな声が耳元で囁いて、その響きにランビリスはそっと息を吐く。
「ミュルメクス、……それは、違う」
「どう違う……!」
「同情なんかじゃない」
はっきりと言い切った声に、更に言い募ろうとしていたミュルメクスが言葉を途切らせる。
「確かに俺は……俺には、お前が俺を好きだって言うような激しい感情はないかもしれない。けど、それでも」シーツに落ちたままだった手を、褐色の背中に回す。思うよりも広いそれを両腕で抱き締め「……こうしてお前を抱き締めたいと思う」
最初に告白されたときには、戸惑うばかりだった。その後も拒んだり、距離を置いたり、ネガティブな対応を取ってきたことは百も承知だ。
けれど、それでも好意を示し続けてくれたミュルメクスの行動にいつの間にか情を感じ始め、先ほどの彼の酷く辛そうな切なげな表情を見て――観念した。自分の気持ちに。
常識という名のフィルターを取り払ってみれば、自分の気持ちはもはや明白だった。好きだ。側にいてやりたい。そんな悲しい表情をさせたくない。――ただ、自分がそうして傍らにあることで失われてしまう可能性を恐れていた。
けれど、もう――潮時なのだ。それがどんな結末を呼ぶとしても、一度気付いてしまった感情を忘れることは出来ない。
「俺も男だから、好きな相手が欲しいって気持ちは解る。だから……少し怖いし、お前みたいに激しく求められはしないけど……お前が、欲しいって言ってくれるのは……今は嫌じゃないんだ」
ミュルメクス、名を呼んで更に言い募ろうとした言葉は、強い抱擁に遮られた。
「もういい」
「ミュル、」
「もういい、黙っていろ。……でないと手加減できなくなる」
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( 2010/10/15)
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