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2024/09/23

「……俺はその気持ちを返せないけど」
 言いながらランビリスは、ここ数ヶ月の出来事を思い出していた。いつもは無抵抗と言うよりは無反応なランビリスをミュルメクスが勝手に抱き締めることしかなかったから、丁度逆転した今の構図は妙な気がして落ち着かない。
 思い返すには実に今更だったが、ミュルメクスに抱きつかれるときは、背中側からであることがほとんどだった。それはランビリスが何かを読んでいたり作業をしていたりで、目の前が塞がっていることが多いというのも理由の一つなのだろうが――まるで、抱き締めた後に自身の背中に回される腕を想定していないようで、勝手な想像ながら――勝手な想像、であって欲しいが――どこか痛々しい。
「こっちを向いて欲しい、話して、抱き締めたら抱き締め返して欲しいって思って良いんだよ」
 真後ろから腕を回したから、当然ランビリスの位置からは、ミュルメクスの表情は見えない。彼が何を考え、どう感じているのか推し量る方法がない。彼はこんな位置から自分のことを見ていたのだと思った。
「心には心を返して欲しいって思って良いんだ」
 偉そうなことを言うが、心を返すどころか、受け容れることも、はっきりとした拒絶を示すこともせずに、ただふらふらとかわし続けてきた自分は不実もいいところだ。中途半端なことばかりしている自覚はある。この抱擁ですら、ミュルメクスの気持ちを受け容れた故のものではない。だがこうでもしなければ、ミュルメクスは己の中に巣くう空虚さに気付かないだろうと――そう思ったのだ。
「だから、」
 そこで一度言葉を切って、間違いの無いようにはっきりと言葉を紡ぐ。
 告げなければならない。そうでなければ、きっとお互いをすり減らすだけだ。
「俺みたいな薄情な奴を好きになっちゃいけない」

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2010/06/11
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