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2024/09/23

 するりと回された腕が解かれる。すぐ傍にあった体温が離れてゆく。
 ソファが軋んで、彼が立ち上がる気配がする。それに伴って離れてゆく腕――それが去り際に、静かな仕草で頭へと置かれ、くしゃりと一度、ミュルメクスの髪を掻き回した。
「おやすみ」


――その声音を思い出しながら、ミュルメクスは寝返りを打つ。
 逆さまに視界に入った窓のカーテンは開け放たれたままになっており、南国の星達が淡く、或いはギラギラとそれぞれの強さで光っているのが見えた。それらを掻き消さんばかりに皓々と西の空に君臨している月が眩しい。星詠みではないミュルメクスには、南の空の星などはほとんど解らない。だからこうして眺めたところで、人の運命どころか明日の天気すら解らないのだが、彼は窓枠に半分かかった月を見上げて、眼を細めた。
 おやすみ、と言われたが、一向に眠りの気配は訪れない。
 あの後彼は家まで無事に帰り着いただろうか。月はまだ天頂近くにあっただろうから、さほどの心配は要らないとは思うのだが。
 それとも送っていけば良かったのだろうか、そこまで考えて、息を吐いた。
 浅はかだ、と心中で呟く。そもそもそんな申し出はランビリスは受け容れないだろうし、話すことすら見つからない、気まずい時間を過ごすだけだ。そう、――何か伝えたいことがあったなら、引き留めてでも告げていた。
 否、伝えたいことならあったのだ。あったはずなのだが、言葉にも形にもならなかった。
 掴めそうで掴めない「それ」の正体を探すことに飽いて、ミュルメクスは目を閉じる。
 月明かりをうっすらと瞼に感じながら、ランビリスの言葉の意味を考えた。
 ミュルメクス自身は、ランビリスを薄情だなどと思ったことはない。
 けれど彼自身は負い目に感じるようなことがあったのだろう。その負い目が耐え難く、それを重ねることを恐れて、好きになるなと主張した。
 けれど、ミュルメクスは彼が一体何にそれほど気にしたのか解らない。解らないのだから、自身にとっては些細なことなのだろう。ならば、ランビリスも罪悪感など感じることはないのだ。だから好きになってはいけないだなどと、そんな言い方をする必要はない――ない、はずだ。
 だが、ミュルメクスは思う。本当にそれだけだろうか。
 ふと、らしくもなく卑屈な考えが脳裏を掠める。忠告のような言い回しで、ランビリスは本当は――ミュルメクスを遠ざけたいのではないか?
 ランビリスが、この想いを歓迎していないことくらいは知っている。はっきりと口に出されたのは今日が初めてだったが、それに気付かないでいられるほど、ミュルメクスは鈍感でも傲慢でもなかった。
 けれど、それでも構わなかったのだ。
 ……苦しい。
 思考ではなく感覚でそう思って、ミュルメクスはぼんやりと目を開く。どこが、とは言い表せない。例えるなら、胸腔の奥が。呼吸は正常で、部屋の空気にも先ほどと変じたところは何もない。なのに胸苦しい。
 思考や呼吸を奪うほどではなく、それでも無視することは出来ない程度には、胸を圧迫するそれ。
 どこか覚えのある苦しさに記憶を探り、思い当たった瞬間思わず嘆息した。
 ああ、そうだ。
 これは、彼の体温を感じた瞬間、溶けて消えた痛みと同じだ。
 結局胸苦しさから逃れる方法が見つからずに、ミュルメクスはゆっくりと深呼吸をして――それでこの苦しさが解消されるとも思えなかったが――眼を閉じた。
 瞼の裏に睡魔の姿を願いながら、ミュルメクスはランビリスの言葉を――それからあの体温の名残を探そうとする。
 微かな、けれど確かに安堵にも似た幸福感をもたらした行為。
――与えられる温度が欲しかった。
 奪うのでもなく、感じるだけでもなく、与えられる温度が欲しくて仕方が無い自身をようやく自覚する。
 こちらを向いて欲しい。言葉を交わして、抱き締め返して欲しい? ランビリスの言葉を反芻する。そうして言葉にされた一つ一つの意味を理解する度に、自身の求めているものが明らかになってゆく。
 簡単なことだった。
 彼にこちらを向いて欲しい。言葉を交わして、彼を抱き締めて、抱き締め返して欲しい。そして皮肉なことに、ミュルメクスがそうしたいと願うのは、受け容れられないと言ったランビリスだけなのだ。求めるのは彼だけだった。彼以外は欲しくない。受け容れられないのだとランビリスは言った。なのにもっと彼の言葉が欲しい。
――これが心が欲しいということなのだろうか。
 今まで抑圧しきっていた欲求を、ようやく自覚したミュルメクスには、そこまでのことは解らない。解らなかったが、一つだけ確かなことがある。
 ランビリスの言ったことは、受け容れられない。
 忠告も主張も、何一つだ。これだけ渇望する願いを自覚してしまったのに、己の想いを封じ殺すなど、とても出来そうにない。

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 ええと、とりあえずこれでscrewシリーズは完結ということで……終わりがすっきりしませんが、このカップリングに関するエピソードは今後も続きますので、ええと……その……はっきりしないのはご愛敬ということで。
 力量不足でございます、すみません。

 えーと、一連の話の文字数をエディタに数えさせたら1万字超えてました。
 1つにまとまってればそんな大したことない文字数ですけど、今回細切れにUPしてあって大層見づらいので、コピペでメモ帳か何かに正しい順番に貼り付けた後まとめ読みとかした方がいいかもしれません。
 あ、当サイトの文章は全て「著作権法の範囲内での利用可」です。
 作者を偽ったり、営利利用したりしなければ、煮ようが焼こうが引用しようが印刷しようが保存しようが、お好きになさってくださって構いません。あっでも晒しにあたるようなことはご勘弁ください……


 折角完結したので、ちょろちょろと呟きを。何か言いたいことが出来たら、またぼそぼそ書きに来ます。

 人体に電流が流れた際「弾き飛ばされるような感じ」がするのは、実際は電流によって人体の筋が収縮し、自分でそこから飛び退いてるからです。
 なので多分もの握ってるときに電流流されたら、場合によったら握ってるものを更に強く握りしめてしまうよーな気もするんですが……うんまあ私はただのしがない生物系学生なので、間違ってるかも知れません。

 あとこうして書いてみると……うちの黒プリはヤンデレの気があるな!
 多分この人の「欠落」は「ほんとに無い」んじゃなくて、「まるで無いように抑圧している」だけです。
 無いふりしてるけど、本当は「ある」から痛みは感じる、無意識のうちに望むものもある。でも、本人ですら「ある」ことに気付いてないから、歪になる。
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2010/06/14
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