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2024/09/23

 女性向け濃度はさほど濃くはないですが、とにかくイチャついてる話なので追記で。

 前回の眼鏡ネタの発端みたいな話です。
 余所のお宅の方々の仲睦まじさを見ていたら、脳内のプリの人がずるいって言い出したので、今回は仲良くイチャついてもらいました。
 ぽつぽつ出てくる姿勢と位置関係の示唆がアレなのは、つまりそういうことです。

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 濃く淹れた紅茶のような色合いの指先で、ブリッジを支点にゆらゆらと、金属色の縁取りの眼鏡が揺れている。
 つるりと光を弾くレンズの向こう側の、奇妙に歪んだ景色を眺めていると、下方から手が伸びてきた。テンプルを掴もうとした手は捕らえて引き寄せ、華奢な道具を引っかけた己の手は更に遠くへ。
 大人げない仕打ちに対して上がった呆れたような声は無視して、ミュルメクスは捕らえた手の甲に唇を押しつけた。無抵抗なのを良いことに、そのままうっすらと浮いた骨を唇で辿り、行き着いた指の付け根、薄い皮膚にちろりと舌先を這わせる。そこまですると流石に逃れようと手首が捩られたので、ミュルメクスは捕らえていた手を解放してやった。
 途端に腕は慌てたように引っ込んでしまったが、向けられた視線にはミュルメクスの悪戯を咎める色はない。代わりにしょうがないやつ、とでも言いたげな苦笑を浮かべてランビリスはミュルメクスと、その指先に引っかかった眼鏡を見遣る。
「壊すなよ?」
「私がそこまで粗忽に見えるか」
「持ち方が不安なんだ」
 言われてみれば、確かにこの状態は指先から落ちることは無さそうなものの、ゆらゆらと揺れていかにも不安定だ。
 仕方なくテンプルを掴んで持ち替える。軽く翳すようになったレンズの、硝子越しの景色。――ほんの少し興味がわいた。そっとフレームの両側、テンプルの部分を両手で持つ。
「あ、……止めとけ、」
 忠告を無視してテンプルの端、緩く曲がった部分を耳にかけ、軽くブリッジを押さえてクリングスを鼻筋にあわせる。
 目の前に広がった視界はやはり奇妙に歪んでいて、ミュルメクスは僅かに眉を寄せた。
「ほら、くらくらするだろ」
 苦笑混じりの声に頷いて、ミュルメクスは眼鏡を外す。ランビリスと同じ視界を覗けないのは、少し面白くない。
「これをかけた世界はどう見える?」
 寝台に腰掛けた姿勢のまま、彩度の高い青の瞳を上から覗き込んで問う。
「レンズ越しなら、お前の見てるのとそんなに変わらないだろうな」
 むしろ、と呟きながら、ランビリスは手を上げて、ミュルメクスの重たげな色の髪を緩く梳いた。
「ない視界の方がお前にとっては変だと思うぞ。それが無いと、こうやって伸ばした自分の指も……この距離だとお前の顔も、暈けて見える」
 髪を梳いていた手がゆるりと上がって、頬に触れる。乾いた熱い指先が撫でていって、思わず瞬いて見返した青の瞳に、何某かの意図を見たような気がしたのは気のせいだろうか。
 そのまま頭後に伸ばされようとする手を、すくい上げるようにして捕らえる。指と指とを絡ませ、寝台に押しつけたその勢いのまま上体を倒し、驚いて瞬くランビリスの耳元で低く囁いた。
「……誘っているのか」
 途端に夜目にもそうと判るほどに、ランビリスの頬に朱が差す。
 妙に初心な反応を愛おしいと思いながら、くつりと笑いを零した、そのミュルメクスの耳元に、ランビリスが頭を寄せる。何事かと思う前に、小さな囁きが耳に入った。
「……お前の好きに取ったらいい」
「…………っ」
 思わず息を呑んで、――まだ持ったままだった眼鏡の存在をかろうじて思い出して、ベッドサイドの棚に置く。
 カシャンという軽い音さえほとんど耳に入らずに覗き込んだ青い瞳は、ちらりと棚の方を見遣ってから僅かに笑みを浮かべる。
「上出来」
「……これ以上はそんな些末なことに気を回す余裕はないぞ」
「些末って、俺にとって眼鏡がどれだけ大事か解ってないだろ」
「しばらくは要らないだろう、あんなもの」
 反駁を紡ごうとするその口を些か乱暴に塞いで、存在を融け合わせるように口腔を貪る。
 そう、今はあんなレンズは要らない。フレームに囲まれた硝子越しの、水槽の魚のような視界より、今はただ自分だけを明瞭に映す視界を与えたかった。
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2010/07/28
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