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2024/09/23

 背中合わせに置かれた二つのソファ、その対角に腰掛けて、ランビリスは足下の床を見つめる。 
 長椅子の端と端、向こうとこちら側の距離を選んだのは、顔を見られたくなかったのと――そんな距離でもなければ、落ち着いて話が出来そうになかったからだ。まったく、自分から会いに来ておいて意気地のない、と呆れ気味に心中だけで呟く。
「……今、時間いいか?」
 空いているだろう時間を見越してやってきてはいたが、確認のために問いかけると、よほど驚いていたのか常よりも僅かに上擦った肯定が返ってきた。
 しばし落ちる沈黙。
 なんと伝えるべきか考えていたはずの言葉は、実際に交わした短いやり取りのうちに吹き飛んでしまっていた。仕方なくいくつかの言い回しを考えようとして――結局何も思いつかず、ランビリスはただ、思っているままを口にした。
「……今まで、はぐらかしてて悪かった」
 口にすれば、今までふわふわとつかみ所のない靄のように、判然としなかったそれが、はっきりと罪悪感という形をあらわす。
 謝罪の言葉はゆっくりと沈殿して、再びその場に沈黙が満ちる。
 だが、その沈黙は先ほどのものとは少し性質が違っていた。
「……何の話だ?」
 場に僅かに混じった戸惑いの気配。空惚けているのでも、暗に不実を責める皮肉でもなく、ただ純粋に思い当たることがない、という声音。
 それをしっかりと聞き届けて、ああ、とランビリスは無音で嘆息する。足りなかったピースが一つ、ぴたりとはまったような感覚。
 ふとした瞬間に感じていた違和感の正体。
 そういう、ことか。
「……お前からの気持ちに対する答え」
 それが何なのか気付いた後では、どうにも意味のない問答に思えたが、言わなくてはならない。そう解っていても、それを口にするのにはやはり、少しばかり勇気が要った。
「俺は、お前を、好きになってやれない」
 言い切って、無意識に肩に入っていた力を意識して抜く。返答を聞いたミュルメクスが一体どんな表情をしているのか――それはお互い背を向けたこの位置からでは到底解らなかったが、
「そうか」
 悲嘆も憤怒もなく、至極落ち着いた声。
「それでも私はお前が好きだ」
 諦めきれない、というニュアンスは含まれていなかった。こちらの答えなど一顧だにしない、聞きようによっては傲慢とすら取れる告白。不自然なほど静かなそれを流すことも受け容れることも出来ずに、ランビリスは目を伏せる。
「お前が俺に求めてる事って何だ?」
「……何も。そこにいてくれ。それが望みだ」
「俺はお前を愛してなくて、俺は何一つお前に気持ちを返せないのにか?」
 ふと、相手の気配に怪訝そうな色が混じった。
 戸惑い、というよりは疑問に近い気配。
「お前がどう思うかと、私がどう思うかは別の話だろう?」
 疑いもなくそれが当たり前、そう思っているのだとはっきりと解る答え。
 決定打だ、思ってランビリスは目を閉じた。
 相手の気持ちが得られなくても、こちらの気持ちは冷めない。そういうこともあるだろう。けれどミュルメクスのそれは違う。
 彼は、与えた感情への応答を求めていない。
 多分、そういうことなのだろう。好意の応酬を意識しない。一方通行のままで構わない。
 だから彼はあるところではとても寛大だ。そしてひどく傲慢でもある。
 無償の、と形容するには病的な在り方。
――そしておそらく、彼本人はその歪さには気付いていないのだ。

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2010/06/09
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