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2024/09/23

 薬品で溶かしきれなかった繊維の残る、ざらついた藁半紙。ここへ来る道すがら買い求めたそれの表面に印刷された活写版の文字を追っていると、視線を感じた。
 決して敵意でも害意でもないのに、妙に居心地の悪い気のするそれ。
 何と言うことはない、見られているだけだ――と視線を送っている張本人ならそう言うのだろうが、ランビリスはそこまで慣れも開き直れもしない。生まれたときから使用人に傅かれ、内外の注目を浴びる王族とは違うのだ。
 結局、無言の視線に耐えかねて顔を上げる。だが、いつもはそれでかち合うはずの青い視線が、今日は手元に向いているのに気づき、彼は軽く「それ」を傾けて相手の方へと向けた。
「……読むか?」
 てっきり記事の見出しに興味のあるものでもあったのかと思ったのだが、問われた方のミュルメクスはどうにもピンと来ない表情で瞬く。数瞬の後、答えがあった。
「それは……何だ?」
「何だ、って新聞だけど」
「新聞……」
 音を確かめるように呟く様子を怪訝に思ったものの、すぐにそんな反応の理由に思い当たり、もしかして、と思いながら問うてみる。
「見たこと無いか?」
「見たことはある。……が、読んだことはない。それが新聞?」
「……何か気になるか?」
「国のものとは大きさが違う」
「ああ、向こうとは主流の版が違うからな」
 縦横の大きさが違うから、図書館でもあの辺りの国の文献は背表紙の高さですぐ判ったものだ。そんなことを懐かしく思い出しながら、ランビリスはもう一度藁半紙の束を掲げて見せた。
「読むか?」
 とはいえ未だランビリスも全てを読み終わったわけではないし、回し読みし終わるよりもファーラ達が降りてくるのが先になってしまうだろう。それでも普段は妙に泰然とした態度のミュルメクスが活字を追うのは、少し面白い気がしての申し出だった。
「……読む」
「じゃあ……って何で立つ」
 新聞を差し出しかけたまま見上げるランビリスに、ミュルメクスの方はいかにも当然、という風情で応じる。
「そちらに行くからに決まっている。こちらからでは文字が逆さで見づらい」
「いや、先にお前だけ読めば……」
「それではお前が読む時間が無くなる」
 それはまったく正論なのだが。しかしランビリスとしては特に読みたい記事があったわけでも無し、時間潰しの道具だったのだから、別に探索から帰ってきた後でも構わない――そう主張するより先に、ミュルメクスがテーブルを回り込んでこちら側へとやってくる。
 アーマンの宿のロビーに設えられているのはソファである。椅子ならばまだしも、成人した男同士がソファに並んで仲良く新聞を覗くというのは遠慮したい――と思った思考を読まれたわけでもないだろうが、ミュルメクスはテーブルと、更にランビリスの座るソファをも回り込んで、丁度ランビリスの斜め後ろ辺りで立ち止まった。
 ランビリスの、肩越しに見上げた視界を遮るようにしてミュルメクスが身を乗り出す。ソファが僅かに軋んで、彼がソファに手を着いたのだと解った。ランビリスの背後から半ば覆い被さるように紙面を覗き込んで、ミュルメクスは悪いが、と声を上げる。
「初めからでも構わないか」
「ん、ああ」
 ほとんど耳元で言われた声の、その近さに戸惑いつつも、ランビリスは紙面を戻す。どうせ数ページ分しか読み進めていなかったから、大して煩わしくはない。
 一面に戻り、一度読んだ記事に読むともなく目を落とす。
「――次へ」
 命令し慣れた声に要求されるまま紙面をめくると、肩に触れていた重みが少し増した。鎧を着けていない胸からは、布越しにじわりと体温が伝わってくる。 二人の距離を否応なく意識させるその温度に、ランビリスは困り果てて、視線を紙面上に彷徨わせた。
 ――隣に座らせた方が良かったかも知れない。
 そうすれば、まだ肩が触れあう程度だったかも知れない。視線を上げればすぐ近くに顔があるのだろう今の距離は、……どうにも近すぎる。
「……なぁ、ミュルメクス」
「何だ?」
「その、近すぎないか、この体勢」
「解っている」
 さらりと言われた台詞と共に襟元に鼻先を埋められて、思わず背筋を硬直させる。
 ――故意犯か!
 思わず叫びそうになるのを飲み込んで、ランビリスは開いた右手で容赦なくミュルメクスの頭を押しやった。
 不満そうな声が視界の外から聞こえてきたが、流石に同情の余地はない。
 ……最近、こういった接触がエスカレートしてきている気がするのは、気のせいだろうか。
 気のせいであって欲しいという自分の願望を自覚しつつ、ランビリスは大仰に溜息を吐いた。

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 王子それセクハラとちゃうんか。

 王族って新聞買わんだろうなぁと思ってこんな話です。
 故意犯って書きましたけど、王子に悪気がない(悪いと思ってない)時点で、確信犯と書いた方が良かったのかも知れない……どうかな。
 相手が喜ばないの知ってて、でも悪いと思わずわざとやってるんだから、故意犯で良いのか……?

 一軍が探索に向かうので、黒プリはオフ=鎧つけてません。
 バリは他のメンツが降りてくるのをロビーで待ってたらプリに捕まりました。

 実は各人のオフの私服とか全然まったく想像が付いてないんですが、それでもお話が書けるのだから、こういうのは重要な部分しか描写しなくても良い文字って媒体のずるくて便利なところ。


 ところでバリは……こう、もうちょっと早めに近いってツッコミを入れておくべきだと思う……
 来る者拒まずなんですよね、この人……拒まない代わりにスルー。暖簾に腕押し糠に釘タイプ。といってもスルーしきれているわけではないけれど。
 この判断の緩さが後々、アレな事態を引き起こすと思われます。
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2010/05/27
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