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2024/09/23

 探索帰りの冒険者達でごった返す、羽ばたく蝶亭の一角。
「……殿下と何かあった?」
「……あんたには何かあったことはバレバレだろ?」
 挨拶もそこそこの問いに、もしかしたら偶然なんかじゃなく探されていたのかも知れない、と思いながらランビリスは苦笑した。
 片手を上げてカウンターに注文を出しながら、エフィメラはまあね、と肩を竦める。夕刻の喧噪にも負けない独特の声音の女主人が去っていくのを見送って、エフィメラは足を組み換えた。
「でもこういう時は、あった?って訊いとくのがやっぱスジかなーって。で、えっと、」
 明るい青の瞳で、横目にこちらを伺いながら、
「……もしかして破局」
 妙な言葉の使い方に脱力しそうになった。
「破局ってのは関係できてる前提で使うもんだと思うんだがなー……」
「あっは、細かいことは気にしなぁい」
 ランビリスの指摘をひらひらと手を振って受け流し、でも、とエフィメラは頬杖を突いた。
「何があったか知らないけどさ。普通に仲良かったでしょ、あんた達。オトモダチとして」
 オトモダチとして。何故かその言葉は妙に響いて、胸の内を少し重くした。理由は解っているつもりだ。ランビリスは壊れた関係を惜しんでいる。進みも引きもしないあの状況が心地よかったと感じている――否、感じていたのだ。
「……まあ、言われてみればそうだったかもな」
 ぽつりと落とされた覇気のない一言に、エフィメラは瞬いて、僅かに気遣うような色を滲ませた。
「……お兄さんもしかして落ちてる?」
「落ちてるっつーか……まあいろいろとあってな。いい歳してパンク中なのよ。疲れてんの」
 言いながら少し視線を伏せれば、シャツに隠された己の手首が目にはいった。思わず昨日の感触を思い出しそうになって、振り切るように溜息を吐く。
 実際、許容量を超えているのは確かだった。どう整理を付けて良いのか解らなくて、一日悩んだあげく酒精に頼ろうとしている。
 そんなランビリスの様子をどう取ったのか、エフィメラはふうん、とだけ呟いて視線を前へ向ける。カウンターの中から威勢のいい声と共に差し出されたグラスに、礼を言うのが聞こえた。
「……でもよく続いたよねぇ。あんたらの仲良しこよし」
 まるで揶揄するような言い方だが、これが彼女の常態であるとランビリスは既に知っている。それだけの月日が知り合ってから流れていたが、ランビリスはそうか?と疑問符を付けて応じた。
「あんた等が来てから、まだ半年は経ってないだろ?」
「そりゃねー。でもぶっちゃけあんた、困りまくってたでしょ?そんなので良くあんな微妙な関係続いたよねって。……ま、納得できるところもあったんだけどさ」
「納得?」
 怪訝そうに問い返すと、そう、とエフィメラは頷く。
「あんた等さぁ、相性良かったんだよ」
「…………」
「うーん、いい感じに困惑顔」
「もの凄く不本意だったぞ、今の」
 ミュルメクスが望んでいた距離と、自分が望んでいる距離は違う。そこからして噛み合わないのに、相性がいいなどと言われてもピンと来るはずもないし、決して歓迎できないアプローチを受けていた状態を「相性がいい」と評されているのならそれは見当違いだ。
「だってホントだもん。殿下は好きなものがそこにあればいい、って人だし、あんたは結構放任主義だから、傍で好き勝手させてくれるし?」
「……そうかぁ?あいつがそこまで無欲とは思えないんだが」
「言い方悪かったかなー。殿下はさー、一方通行でも構わないんだよ」
 その言い方がなんだか引っかかって、ランビリスはエフィメラへと視線を向ける。
「どういう……?」
「好きって言って、それにあんたが"はい"も"いいえ"も"好き"も"嫌い"も答えなくても、殿下は怒んないでしょ? そういうこと」

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2010/06/05
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