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2024/09/23

 いよいよ増してきた背中の重みにいい加減文句の一つでも言おうと肩越しに振り返る、その鼻先を思いがけず至近の距離にあった黒髪と、穏やかな吐息とが掠めていって、ランビリスは思わず開きかけていた口を閉じた。
 ……参ったな。
 胸中で呟いて、ランビリスは静かに息を吐く。
 こちらに背中を預けたまま微睡んでいる青年の眠りは深いようで、起きる気配は微塵もない。
 海都へやってきて日の浅い青年やギルドマスターの姫君達とは違い、迷宮に潜るようになる以前から海都で生活していたランビリスや、その相方を務めていたシスターは自宅を持っている。アーマンの宿に宿泊しているわけではない以上、昨日探索に出た青年達の帰りがいつ頃だったのかは知る由もないのだが、おそらくは遅い時刻だったのだろう。
 規則正しい寝息を聞いていると起こすのもしのびない気がして、ランビリスは前へと向き直った――は、良いのだが、相手が寝ていると知った後では、少し離れたところへある工具に手を伸ばすのにも起こさないかどうか背後が気になってしまう。
 開いた工具箱の横に置いておいたドライバーを極力動かないようにして腕だけ伸ばして取り、螺子を締め、戻し、別の作業を挟んでは手を伸ばし――を、三度繰り返した辺りで諦めた。ドライバーを置く代わりに、工具箱の定位置へと放り込んで片付けを始める。
 いつも行っている工程にはいくつか足りなかったが、どうせ昨日のうちに整備はほとんど終わっていたのだ。ただ背後の青年と居るのに手持ち無沙汰になるのが気まずくて、作業をしていたに過ぎない。
 静かな呼吸を聞きながら、ランビリスはもう一度、今度は口に出して、参ったなぁ、と呟いた。
 言うまでもなく、背後の青年のことである。
 航海中や宿に足を運んだときのみならず、こうして自宅までやってきてはすぐ手だの口だのを――作業に、ではなくランビリス自身に――出すくせに、待っていろとか、作業中だと主張すると存外すぐにおとなしくなるので、どうにも追い払えない。
 かといって手が出なければまったく無害かと言ったらそういうわけでもなく、作業の合間や他愛ない会話に混じる、誤解のしようのない恋愛感情の告白や、たまに正気を疑いたくなる支配欲とも独占欲ともつかない台詞は、ランビリスを戸惑わせるには充分すぎた。
 そもそも、誰がいい歳の髭を生やした成人男性が甘く愛を囁かれる日が来るなどと思うだろう。いや、実際の所は囁くなんてかわいげのあるものではなく、正面から宣言されている場合がほとんどなのだが。
 とにかく、普通は誰も思わないだろう。可能性の話ならばともかく、一般的にはあり得ない。しかも相手は女性ですらなく、傲岸不遜な王子様と来ている。
 半年前のランビリスが聞いたら、間違いなく何かの冗談か笑い話の類だと思って笑い飛ばしていた。今だってそうしたいが、残念ながらこれは現実である。何よりも、背中の重みが事実であると物語っている。
 呟いたのが聞こえたわけではないだろうが、背後で青年が僅かに身じろいだ。起きるだろうか、そう思って背後の様子を窺ってみたが、どうやら青年の意識はまた眠りの淵に落ちていったらしく、僅かに浅くなった呼吸はまた最前の規則正しいものへと戻ってゆく。
 ただ、身じろいだ拍子に青年の黒い髪が一房流れてランビリスの肩から落ちており、青みがかった艶のあるそれを、ランビリスは何気なく手に取った。
 男にしては綺麗な髪だな、ぼんやり浮かんだ感想を、思考は当たり前だと肯定する。数ヶ月前までは王宮住まいだった青年である。手入れをされていない方がおかしい。だが、そのうちこの髪も陽に照らされて、潮風に煽られ、或いは魔物の体液を被っては傷んでゆくのだろう。
 それはありふれて当たり前のことだったが、何となく勿体ないような気がした。
 だが、そもそも勿体ないというのならば、この青年は大抵のことが勿体ない。客観的に見れば端正な顔をしているのだ、その気になれば街の女性と――ギルドの面々を考えると、ギルド内恋愛は勘弁してもらいたい――普通の恋愛をすることも出来るはずだ。
 いや、とランビリスはそこまで考えて自身の思考に訂正を入れた。
 恋愛は出来るだろうが、それが上手く行くかは少し疑問だ。例えば青年が誰か女性と両想いになったとして――今のランビリスに対する態度をそのまま女性に向けるとしたら、それは問題だと思う。
 日常的な口説き文句――は、まあ良いだろう。告げる態度が堂々とし過ぎている気がしなくもないが、下手に気障に言われるよりはそういうのが好みだという女性もいるかも知れない。
 だが例えば――今のように、自宅にまで押しかけてくるのはどうだろう。若ければ想い人には毎日会いたいものなのかも知れないが、それにしたって過ぎた好意は重いものだ。
 人と人が上手くやっていくには、ある程度の距離を取る必要がある、とランビリスは思う。その距離を不必要に縮めたり、或いは遠ざかったりして適切な距離の範囲を逸脱すれば、得てして関係は崩壊してしまう。相手に近づきたいと思っても、相手がそれを望まなければ、決して関係は縮まらないのだ。
 この王子様は、どうにもそれがよく解っていない節がある。自分からは幾らでも好意を表現するくせに、相手からの好意には今ひとつ頓着しない。
 誰かそれを教えてやってくれよ、青年が自分に好意を向けているかぎり、そんな女性の登場する可能性は0だとは解っていながら、ランビリスは想像の中の「青年の恋人になってくれるかも知れない女性」に向かって、胸中で呟いた。
 本当ならば、青年のアンバランスさに気付いている自分が一言言ってやればいいのだろうが、好意を寄せられている立場の自分が青年にそんな話をするのは酷な気がして、どうにも躊躇ってしまう。
 青年からの思慕を、受け取って返す気は、ない。
 そのくせ、更生のためとはいえ青年を傷つける役を引き受けたくはないのだ。嫌われたくはない。
 だからその役を誰かがやってくれないかと待っている。――ランビリスは、その程度には偽善者だ。その自覚もある。
 どうしたもんかね。己の台詞が一体何にかかるのか理解しないまま、ぽつりと呟いて、彼は息を吐いた。

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 くっつく前。
 よく考えたら今まで黒プリ×眼鏡バリは会話文だけしか書いてなくて、初めてマトモに文章書いたのが前回の、Collapseと書いて最初からクライマックスと読む、みたいな話だったので、ちょっと間を埋めてみようと足掻いてみました。

 しかしいろいろ理屈をこねてみましたが、結局は背中合わせで寝てる黒プリの髪をためつすがめつするバリが書きたかっただけの話だったりする。
 ドライバーと半田鏝は萌えアイテムですと主張しておきます。

 黒プリはそれなりに美人(?)です。だって後宮って美女ばっかりだもの。正妃まで含めて美人ばっかりなので、そこから生まれた子だって美人ばっかりです。
 なので姐パイはもの凄い美人です。
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2010/05/11
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