「手伝、」
「いい。そこに居ろ」
台詞を言い切る前に遮られた上、更には申し出を断られ、ミュルメクスの面に不満げな色が滲む。が、すぐにそれはかき消えて、代わりに浮かんだ気まず気な表情と共に、彼は深く嘆息した。
「……お前が警戒するのは解る。だが……あのようなことは、もうしない」
曖昧な言い方になったが、それで充分通じたのだろう。僅かな間の後、小さな溜息を落として、ランビリスは振り返った。
「そういう言葉を信じたいのは山々だけどな。それの信用に足る根拠はあるのか?」
「……ある」
入室までは許したが、口先だけの宣誓を無条件に信じられるほど、ランビリスは寛大にはなれない。自己嫌悪を感じつつも、試すような言い方で問えば、一拍おいて肯定が返った。返答の速さを少し意外に思いながらも、ランビリスは無言で先を促す。
「……お前は、心を求めて良いと言った」
確かめるような声音で言われて、頷く。確かに、言った。――それが一番伝えたいことだった。
それを海のような青い瞳で見遣って、ミュルメクスは口を開く。では、と僅かに声が重くなった。
「それは、お前の、でも構わないか?」
思いがけない真摯さで紡がれた声に、ランビリスは一瞬言葉に詰まる。――だが、ミュルメクスの言は予想の内でもあった。
「…それじゃ不毛なだけだ」
たかが一言二言の言葉で、恋情が消えるというのならこれほど楽なことはない。それは解っているから、ランビリスはただ説得を繰り返すだけだ。
「それに、何度も言ったはずだ。……俺は、」
「私が、」
みなまでは言わせないとでもいうかのように、強い語調でミュルメクスが台詞を遮る。
「望むのは自由だ。……だが、願わくば望むだけでなく手に入れたい、と思う。お前の身も心も。だから、……強いないと約束する」
「改めて言おう。……私は、ランビリス、お前を愛している」
「……どうしてそうなる」
困惑をにじませた呟きは、一人きりの部屋の中に力なく響いた。
「馬鹿だろうあいつ」
それともたかが言葉だけで、人の気を変えられると思っているランビリスの方が愚かなのだろうか。
誰一人聴く者の居ない呟きを落とし、ランビリスは深く深く息を吐く。
本当に馬鹿だ。これは不毛な恋である。続けたところで実りがあるとは思えない。それは駄目だ、とランビリスは思う。
結局の所。ミュルメクスからの恋愛感情は受け取れないが、それでもランビリスは、ミュルメクスの幸福を願ってはいるのだ。
けれど、ミュルメクスがランビリスに恋情を抱いている限り、それは報われることはない。
では報ってやればいいのだろうか―― 一瞬過ぎった思考には首を振る。そんな中途半端な行為は、今更ミュルメクスは望まないだろうし、おそらくはすぐに瓦解する不安定な関係にしかならない。余計な禍を呼び込むばかりだろう。
――幸せになって欲しい、と思う。
ランビリスへの執着など止めて、別の誰かのことを愛して。多分ミュルメクスは、今度は人の愛し方を間違わないだろうから。
そうして誰かと手を繋いで街にでも繰り出す方が、彼の若さにはよほど似合っているように思われる。
その光景を何とはなしに思い描こうとして――過ぎった一抹の寂寥感に、ランビリスは困惑して瞬いた。瞬いて、まるで親気取りだと苦笑する。
幸福になって欲しい。そう願うのに、この場に彼が戻ってこないことを考えると、空虚なこの場がこんなにも寂しい。
いつの間にか随分と移っていた情を、ランビリスは漸く自覚した。
「いい。そこに居ろ」
台詞を言い切る前に遮られた上、更には申し出を断られ、ミュルメクスの面に不満げな色が滲む。が、すぐにそれはかき消えて、代わりに浮かんだ気まず気な表情と共に、彼は深く嘆息した。
「……お前が警戒するのは解る。だが……あのようなことは、もうしない」
曖昧な言い方になったが、それで充分通じたのだろう。僅かな間の後、小さな溜息を落として、ランビリスは振り返った。
「そういう言葉を信じたいのは山々だけどな。それの信用に足る根拠はあるのか?」
「……ある」
入室までは許したが、口先だけの宣誓を無条件に信じられるほど、ランビリスは寛大にはなれない。自己嫌悪を感じつつも、試すような言い方で問えば、一拍おいて肯定が返った。返答の速さを少し意外に思いながらも、ランビリスは無言で先を促す。
「……お前は、心を求めて良いと言った」
確かめるような声音で言われて、頷く。確かに、言った。――それが一番伝えたいことだった。
それを海のような青い瞳で見遣って、ミュルメクスは口を開く。では、と僅かに声が重くなった。
「それは、お前の、でも構わないか?」
思いがけない真摯さで紡がれた声に、ランビリスは一瞬言葉に詰まる。――だが、ミュルメクスの言は予想の内でもあった。
「…それじゃ不毛なだけだ」
たかが一言二言の言葉で、恋情が消えるというのならこれほど楽なことはない。それは解っているから、ランビリスはただ説得を繰り返すだけだ。
「それに、何度も言ったはずだ。……俺は、」
「私が、」
みなまでは言わせないとでもいうかのように、強い語調でミュルメクスが台詞を遮る。
「望むのは自由だ。……だが、願わくば望むだけでなく手に入れたい、と思う。お前の身も心も。だから、……強いないと約束する」
「改めて言おう。……私は、ランビリス、お前を愛している」
「……どうしてそうなる」
困惑をにじませた呟きは、一人きりの部屋の中に力なく響いた。
「馬鹿だろうあいつ」
それともたかが言葉だけで、人の気を変えられると思っているランビリスの方が愚かなのだろうか。
誰一人聴く者の居ない呟きを落とし、ランビリスは深く深く息を吐く。
本当に馬鹿だ。これは不毛な恋である。続けたところで実りがあるとは思えない。それは駄目だ、とランビリスは思う。
結局の所。ミュルメクスからの恋愛感情は受け取れないが、それでもランビリスは、ミュルメクスの幸福を願ってはいるのだ。
けれど、ミュルメクスがランビリスに恋情を抱いている限り、それは報われることはない。
では報ってやればいいのだろうか―― 一瞬過ぎった思考には首を振る。そんな中途半端な行為は、今更ミュルメクスは望まないだろうし、おそらくはすぐに瓦解する不安定な関係にしかならない。余計な禍を呼び込むばかりだろう。
――幸せになって欲しい、と思う。
ランビリスへの執着など止めて、別の誰かのことを愛して。多分ミュルメクスは、今度は人の愛し方を間違わないだろうから。
そうして誰かと手を繋いで街にでも繰り出す方が、彼の若さにはよほど似合っているように思われる。
その光景を何とはなしに思い描こうとして――過ぎった一抹の寂寥感に、ランビリスは困惑して瞬いた。瞬いて、まるで親気取りだと苦笑する。
幸福になって欲しい。そう願うのに、この場に彼が戻ってこないことを考えると、空虚なこの場がこんなにも寂しい。
いつの間にか随分と移っていた情を、ランビリスは漸く自覚した。
scrweの後の話。この辺の話は未だちょっと時系列があやふやです……
今まで積極的なのはプリだけだったので、いい加減バリにも距離を縮めてもらおうと。
でもまあ、この話でも押せ押せなのは圧倒的に黒プリの方なんですけどね。
今まで積極的なのはプリだけだったので、いい加減バリにも距離を縮めてもらおうと。
でもまあ、この話でも押せ押せなのは圧倒的に黒プリの方なんですけどね。
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( 2010/07/01)
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