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2024/09/23

「案外似合うじゃないですか」
 明らかに面白がっている風な声の主を、俺は鏡越しに睨んでやった。
 けど、洗面所の入り口に軽く凭れていたギーファは、軽く肩を竦めて見せただけ。いやむしろ、竦めたんじゃなく、笑ったのかも知れない。……確かにこのかっこじゃ、何しようが面白いだけかも知れねーけどさ……
「あんまり笑うんじゃねーよ」
「これは失礼。まるで縫いぐるみのようだったので、つい」
「ぬいぐるみ……」
 ファンシーな単語を復唱して、俺は鏡の中の自分の頭を見直した。いつも通りの逆立てたヘアスタイルの上に乗って……や、生えてるのは、まさにギーファが指摘したような、キャメル色の柔らかな毛を生やしたテディ・ベアの耳だ。
 いっとくけどコレは俺の趣味じゃない。
 ついでにいっといてやると、俺の後ろで笑ってるコイツの趣味でもない。いや、罰ゲームになら楽しくもない獣耳装着を要求しかねない奴だけど、少なくともコイツはクマじゃあないと思う、いやそんなことはどうでもいいけど。
 北斗七星団と鎧羅軍の仕事は、何も戦闘だけじゃない。もちろん有害モンスターを駆除するようなこともあるけど、実は要人警護、治安維持、災害救助その他諸々の任務の方が多かったりする。そんな鎧羅軍はフレンドリーにも一般市民との垣根を無くすために、頻繁に基地開放だとかイベントだなんかを行っていて、特にハロウィンは秋の終わりの一番大きなイベントだ。当日は星団員も仮装やら変装やら解らない格好をして、曲芸じみた芸を見せたりなんだりをする。
 ……で、今年は戦争終結記念に、他部族のカッコをして曲芸だかパレードだかをするんだそうだ。
 因みに俺の所属する第六星団が扮するのは、獣牙族。
「でもいくらイベントで、市民に親しんでもらうためーだからって、大の男に獣耳はねーだろ……」
「君、それ外で言ってはいけない言葉だって解ってますか? 同盟組んだ獣牙と小競り合いなんて、私は御免ですよ」
「解ってるよ。獣牙族はさぁ、良いんだよ。なんか紋様とか爪とか?男らしーじゃん。でも俺等、付け耳付け尻尾だぜ? ぶっちゃけさ、女装だろこれ!?」
「良いじゃないですか、面白くて」
 面白くもない仮装なんてモグリですよ。常日頃から大道芸人のような人形を連れ歩いているギーファが腕を組んで言う。
 そりゃ、ハロウィンは俺等鎧羅住民にとってはお祭りだ。馬鹿騒ぎしたり大胆なことしたりするのが正しい楽しみ方だってのは俺だってそう思う。けど何だかなぁ……
「そう言う第五はどこやるんだよ?」
「私の所は特に面白くはありませんよ」
 言ったギーファが視線で洗面所の隅を示す。横に突っ張った物干しには、いつもギーファが着ているのよりもいくらかシンプルな黒い上着が――詳しく言うと、翼の生えた黒い上着がハンガーに吊されていた。
「飛天族かよ……」
 ギーファが飛天族。うーん、髪色はギリギリクリアとしても、こんな背が高くて肩幅がっちりした飛天族とかイメージ狂うな。いやでも、見えにくい糸を使えばコイツの人形はまるで魔法で動いてるように見えるかも知れない。はまってる、と言えばはまってるか。
「どちらかというと、君の付け耳の方が上等ですな」
 確かに、鳶のような茶色い翼は、形といい羽根の付き方といい、ちょっとチープな感じだ。これなら俺のテディベアの耳の方が本物っぽい。
「第六が獣牙、第五が飛天、って事は第七は聖龍?」
「そうですよ。……君、もしかしてマルス将軍のことを見ていない?」
「見てないって、マルス将軍だろ?朝見たぜ?」
「そうじゃなく、あの人が仮装しているところを、ですよ」
「聖龍族の?」
「なんと言いますか……まるで節分でも始めそうな感じでしたよ、角の生えた将軍は」

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2009/10/21

繰り返される皮肉。
他愛ない揶揄い。
偶に仕込まれた自嘲と、
巧妙に組まれた言葉。


順番に示されるミスリードや仕掛けを一つ一つ見破って、
何所まであんたに近づける?

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2009/01/08

 掌が裏返される。ひらりといっそ大仰なくらいの動きで返された右手の、人差し指と中指の間に挟まれたコイン。今度は左手が動いた。見せつける動作で、今度は人差し指と親指でコインをつまむ。何の変哲もないコインだと、指先で転がす。右手がコインの表面を撫でる。一回、二回。種も仕掛けもございませんと、ありきたりな台詞でも吐くのではないかと思わせる動きで、もう一度左手が翻る。金属の表皮の裏側を見せて、表に戻す。右手がコインを撫でる。一度。二度。今度は右手の人差し指と中指の先に乗ったコインに、左手が、まるで魔法でも掛けるように指を動かしながら近づいて、右手が一瞬左手に隠れた直後には両の手は拳の形に
「見えた」
握り拳が完成する直前の宣言に、彼は片眉を上げた。
 驚きと不満と疑いがそれぞれ均等に混じり合った片眼に、得意げに笑い返してやる。
「今、左手ではじき飛ばした。だからコインは右手でも左手でもなく、左袖の中」
 指摘すると、ギーファはつまらなそうな顔をして、左腕を下げた。軽く振ると、袖からさっきの銀色のコインが転がり落ちる。コインは机の上で一度跳ねた後、回転して止まった。
「だから嫌なんですよ、この手の手品は」
「下手なだけなんじゃねーの?」
「動体視力勝負が通用しない手品は見破れないくせに、よく言いますね」

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2008/11/09

 骨の浮き出た拳が広げられる。表裏、どちらにも何もないことを確認させるように、彼は悠々と大きな掌を一度二度返して見せた。
 見事にコインを消失させてみせた相棒の手をまじまじと見つめて、バレットは感嘆の溜息を吐く。
「……上手いのな」
「お誉めいただいて光栄ですな」
 台詞とは裏腹に、特に何とも思っていない調子でギーファは答えて両手を机の上へと戻す。ごく何気ない仕草で濃い黒の液体の入ったマグカップへと手を伸ばした相棒につられるようにして、バレットも最前から両手で包み込んでいたマグカップへと口を付けた。
「なあ、それどうやってんの」
「種明かしを求めるのは無粋ですよ」
 そりゃそうだけど、バレットは口ごもる。ギーファの言うことはもっともだが、それでも気になってしまうのが人の性だ。
 テーブルマジックですから、別に大層なタネはありませんがね。一口含んだコーヒーを飲み込んで、ギーファは言う。
「それでも言ってしまっては面白くないでしょう。――タネはありますが、仕掛けはありませんよ。ただの手技ですから、考えてみると良い」
「んじゃ、もう一回見せろよ。そしたら見破ってやるから」
 やれやれ、とギーファは肩を竦める。
「こういうのは一度きりだからウケるんですよ」
 言って彼は、いつの間にか掌に出現していたコインを指先に挟んで机の上に置くと、バレットの方へと滑らせた。

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「ああ、夜が明けますよ」
 溶けない氷と、芯まで凍える大気の支配する、この厳格なる白の大地。
 見渡す限りの雪原が橙色に染まり始める。
 彼は眩しげに眼を細めた。

――極夜の夜が明けてゆく。







「ばぁか。こっちはとっくに明るいっつーの」
 電話口からの声にそう返す。
 雪に降り籠められる町に昼を吹き込む光。
「早く帰ってこいよ。のろのろしてて、また夜になったりしたら承知しねーから」

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2008/02/10

 長い指のうち、人差し指から薬指までを、ふっくらした小さな手が握りしめていた。
 ぷくぷくした手の彼女の背丈は、握りしめた指の主の半分もなくて、それでも強がるように時折鼻を鳴らしながら、真っ赤な顔をごしごしこすっている。
 その手を引いて歩く長身の彼は、気を遣っているのか少しだけ女の子の側の肩を下げている。姿勢の良い彼には少し辛いかも知れない。
 人混みの中、ざらついた石畳を歩いていた二人は、やがて小さな建物の前で立ち止まる。
 彼が硝子張りの戸を叩くと、中から制服を着た女性が出てきた。軍服とは違う、ちょっと青みがかった制服。
 婦警さんは彼と二言三言言葉を交わしてから、しゃがみ込んで足下の女の子と目線を合わせた。何事かを女の子に言うのだが、女の子は泣きやまない。握りしめた手に力が加わったのが解る。
 彼が困ったように女の子を見下ろしている。こういう所は気が利かないなぁと思っていると、婦警さんがまた何かを言う。明るく微笑んで、優しげに女の子の手を握った。
 声は聞き取れなかったけれど、それでやっと女の子は口を開いた。ぽつりぽつりと何かを喋る。
 長い指を握った手がほどけて、彼は下げていた肩を元の位置まで戻した。
 婦警さんが女の子の手を引く。まだベソをかきながら交番の中に入っていく女の子は、戸が閉まる前に振り向いて、彼に手を振った。
 彼は相変わらず少し困った顔を無理矢理に笑顔の形にして、手を振り返した。


「――面倒見良いとこあるじゃん」
 後ろから声をかけたら、あからさまに見られた、という顔をされた。
「見てたんですか、君」
「そりゃもうばっちり最初から最後まで」
「替わってくれれば良かったのに」
 君の方がよほど慣れているでしょう、少しだけ不満そうな調子の声は聞き流す。
「子供好きじゃないの?」
「嫌いですよ」
「何で」
「扱いづらいからです」
「の、割にはちゃんと面倒見てたみたいだけどー」
「だから嫌いなんですよ」
「……どういう意味?」
「さて」

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 背中合わせ。
 樹影に潜む者共の足音に耳を澄ます。
 1つ、2つ、3つ4つ……約40。退路はない。囲まれている。

「なぁギーファ、これって千客万来って奴?」
「私達が出向いてきたのですから、満員御礼の方が適切では?」
「満員って、ここ屋外じゃん」
「万『来』ではないでしょう」
「まあいずれにしろ、おもてなししなくちゃなー」
「ええ、捜すまでもなく出てきてくれたんです、こちらも張り切らねばなりませんな」
「んじゃ、いっちょ行くか!当たんないよう気をつけろよ、ギーファ!」
「それはこちらの台詞ですよ。――さあ、踊りましょうか、シザースドール」

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2006/03/13
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