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2024/09/25

「私が言って良いことなのかは解りませんが」
 そう前置きしながら迷うような素振りを見せて、それでもその一瞬後には特に気にした様子もなく、紅髪の鬼は口を開いた。
「彼はこの花が好きではないのですよ」
 この花、そう言ってホルストが見上げた先には、ほんのりとだけ桃色に色づいた花がある。花が散った後に葉を出すこの樹は丁度今が花期で、焦げ茶の枝に花だけが付いている様子は、少し奇異ではあるがとても綺麗だ。
 ひらりとがくから離れた花弁が一枚、くるくると舞いながら落ちてゆくのを見ながら、マキシは意外だな、と呟いた。
 桜という名のこの樹には、いかにも今話題にされている彼が好みそうな話が沢山ある。例えば、剪るとそこから腐って枯れてしまう儚さや、花期の前には樹皮の内側が紅に染まるという健気さだとか。
 特に、「桜色」と呼ばれる白とも桃色ともつかない淡い色合いは、話題にされている彼が好みそうだと思っていたので、一体この植物のどの辺りが気に入らないのだろうとマキシは枝を見上げる。
「嫌いというわけではないのでしょうが」
 マキシの考えを読んだようにそう続けたホルストは、思案のためか顎の辺りに手を当てて少し視線を下げた後、言葉を選んだ慎重さで言う。
「好きではない、と言うか……そう、苦手というのが近いかも知れません」
 マキシは戸惑いの混じった相づちを打つ。目の前の樹には、異常な造形の場所も、強烈な匂いも、グロテスクな模様も、およそ嫌われそうな要素は何もない。だからきっと苦手というなら、それは多分樹や花の見た目や生態ではなく、この種の樹に纏わる記憶か何かなのだろう。ならばマキシが推測できるようなことではない。
 見上げたままのマキシ達のすぐ上を、微かな風が通り抜けてゆく。並木状に遠くまで続いている桜の枝の間を縫っていった風に揺らされて、またはらはらと花弁が落ちた。
「ほら、端からちらちら散っていくでしょう?」
「え?ああ。……それが苦手な理由だ、って?」
 訝しさの滲む声に、ホルストはちらりとマキシへ視線を寄越して、その端正な顔で僅かに微笑んだ。
「そうだ、と言えばそういうことになるのかもしれませんね」
「でもこの樹が花を散らすのは、」
 言葉の途中で先ほどよりも強い風が吹いて、今度は盛大に花が舞った。雪よりも激しく、雨よりは静かに積もる花。
「むしろ好きになれそうな理由な気がするけどな」
「私もそう思いますよ。百合や牡丹などの大きな花にはない魅力がありますね」
 拍子抜けするほどあっさり同意したホルストは、そのまま一歩踏み出して前へ出ると、マキシの方へと向き直る。芝居がかったような流麗な動作で両手を広げた。
「こうして散る光景はそれはそれは美しい」
 彼に恋い焦がれて追いかけてきたという女性達なら、ここでその胸に飛び込んでしまいたいと思うのかも知れない。恋に目隠しされてしまった彼女達なら、それくらいしてもおかしくない。だがホルストは、でも、という否定の言葉と共に迎え入れるように広げていた両手を下ろしてしまった。
「結局最後に残るのは裸の樹です」
 言って彼は少しだけ寂しそうな眸をする。
「彼は、それを見て故郷を思い出すのですよ」
 その言葉に、マキシは今更ながら、彼等がこの世界へとやってきたわけを思い出す。当時既にほとんどが崩壊し、滅びかけていたという彼等が住んでいた世界。故郷で起きた出来事のことを彼等はあまり語りたがらないが、断片的に彼等が語る言葉や、仲間同士の会話から、羅震獄という名で呼ばれるそこがどんな世界だったか、どういう風になってしまったのかは想像がつく。
瑞々しい姿のままでばらばらになって散っていく花は、もしかしたら故郷が壊れてゆく光景に似ているのかも知れない。
 それを思った一瞬マキシは言葉を失い、間の悪い沈黙を破るべく口を開く前に、だがホルストは慰めも同情も許さず、言葉の間を奪って肩を竦めた。
「本人は認めたがらないでしょうが、見かけによらず感傷的ですからね」

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 骨の浮き出た拳が広げられる。表裏、どちらにも何もないことを確認させるように、彼は悠々と大きな掌を一度二度返して見せた。
 見事にコインを消失させてみせた相棒の手をまじまじと見つめて、バレットは感嘆の溜息を吐く。
「……上手いのな」
「お誉めいただいて光栄ですな」
 台詞とは裏腹に、特に何とも思っていない調子でギーファは答えて両手を机の上へと戻す。ごく何気ない仕草で濃い黒の液体の入ったマグカップへと手を伸ばした相棒につられるようにして、バレットも最前から両手で包み込んでいたマグカップへと口を付けた。
「なあ、それどうやってんの」
「種明かしを求めるのは無粋ですよ」
 そりゃそうだけど、バレットは口ごもる。ギーファの言うことはもっともだが、それでも気になってしまうのが人の性だ。
 テーブルマジックですから、別に大層なタネはありませんがね。一口含んだコーヒーを飲み込んで、ギーファは言う。
「それでも言ってしまっては面白くないでしょう。――タネはありますが、仕掛けはありませんよ。ただの手技ですから、考えてみると良い」
「んじゃ、もう一回見せろよ。そしたら見破ってやるから」
 やれやれ、とギーファは肩を竦める。
「こういうのは一度きりだからウケるんですよ」
 言って彼は、いつの間にか掌に出現していたコインを指先に挟んで机の上に置くと、バレットの方へと滑らせた。

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 神羅

 力を失った先王には、魔王は注意を払わないだろう。だがそれでも、再び魔王が己も含む彼等に洗脳の手を伸ばしてこない保証はなかった。心と記憶を支配する相手の手管を知ってはいても、二度目のそれに抗いきれるとは限らない。
 それに例え力を失っていても、操ることが出来さえすれば、部族王への不意打ちも可能だ。何より再び敵として彼等の前に立たせることが出来れば、その精神的なダメージは計り知れない。一度手に掛けようとした父に、もう一度刃を向けられるか。
 ――おそらく彼等は戦うだろう。恐ろしいほどの葛藤を抱えながら。
 
 半減した力より、城を――領地を守る責務より、もう一度彼等の前に立たなければならない可能性。それが彼を一番強くここに縛りつけている。

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2008/09/01

「ねえ、」
「なんだ女ホイホイ」
「止めてくれないかその呼び方!」
「事実なのだからしかたあるまい」





「仲良いなぁ、あの二人」
「……そうか?」
「うん。ホイホイ、って所は秀逸。と言うわけで今回はミロクに一票」
「そりゃずるい。俺だって今回はミロクに賭けたい」
「今回というか、全体的にこのネタ関係ならケルベーダはホルストに賭けないでしょ」
「……あの」
「なあにー?メリルちゃん」
「ホルストさんとミロクさんは何で喧嘩しているんですか?」
「あー、メリルちゃんは気にしなくて良いの。ちょっとほら、からかいあってるだけだから。こっち来る?」
「子供ならともかく、俺は寄る女を側に置いていたあいつの神経が知れない」
「そういうことは言わない。大体ケルベーダだって十分人間ホイホイだったじゃないか。引っかかったのは女の子じゃなくムサいチンピラばっかりだったけど」
「……ケルベーダさんは女の人が嫌いなんですか?」
「嫌いじゃないけど別に好きじゃない、ってとこでしょ。女とは殴り合い出来ないから」
「でも、クレアさんとは仲が良いですよね?」
「それは私とは本気で拳を交わせるから」
「勝手に人を語るなよ」
「でも事実でしょ?」

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 神羅

 悲しくなどはないのです。
(私は彼を愛していたのですから)
 泣く必要などないのです。
(彼は生きて戻ったのですから)

 けれど、


(本当は、)

(失いたくなかった。あなた方のどちらも)



(……選べないほどに愛していた)

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 掌の、重み。


 (どうして、)

 髪をかき混ぜるてのひらが、こんなに優しい。

 (こんなに大きかったなんて、気付かなかった)

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2008/08/22
 神羅

 身の内の炎を燃やして、人は戦うのです。

 感じますか、燃える業火を。
 それは貴女を守らんとする火。
 熱く燃える焔は、いつでも貴女に温もりを与えたでしょう?
 鮮やかな光は、決して貴女を孤独にはしなかったでしょう?
 そうして貴女は護られてきたのです。

 さあ目覚めましょう、眠り姫。
 小さくとも儚くとも、貴女の内にも炎はあるはず。
 その炎で貴女の絶望を焼き尽くすのです。

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2008/08/19

「ジョーカー君、綺麗だと思わないかい?」
「僕は宝石に興味がありませんから」
「私はカラットがどう、とか、カットがどう、とかそんな人が決めた価値の話が聴きたいわけではないよ。君の感想を聴きたいんだ」
「……見慣れない色のダイヤですね」
「美しいだろう?」
「……そうですね、

 あなたに似合うと思います」

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2008/08/19
 麝香

 教えてよ、艶のある肉厚の唇がゆるく弧を描く。思ったよりも背の高い彼女の、濃い琥珀色の瞳がすぐ近くに来て、サイアスはすっかり困ってしまった。
「あの石は一体何なの?」
 会議の帰り、柱の影から滑るように歩み寄ってきた彼女が、挨拶も駆け引きもそこそこに切り出してきた質問に、サイアスは心中で来た、と呻く。
 絶対来ると思ったんだ。石一つのためにわざわざ魔界への扉を開くことに、一番不満そうにしていたのは彼女だったから。あとついでに、何も知りませんよ、という演技が上手くできた自信もなかったし。
「皇帝陛下も大魔導も教えちゃくれない。でもあの石はただの宝石なんかじゃないでしょ?」
 さあ、適当な返事をサイアスは返す。彼はあれが何なのか、どういう物なのか知っている。彼が生まれたのは、まだ誰もがそれが――あの聖龍石がどういう石かを知っている時代だった。
 サイアスは、別にあの石がどういう物か、彼女に教えてしまっても良いのじゃないかと思っている。少なくとも彼女――シルヴィはあの聖龍石に魔王が封じられていた、いると知ったところで、何か愚かな行動に出るような人物ではない。
 それでも大魔導ライセンが口を噤んでいるからには、それなりの理由があるのだろうし、サイアスもその決定に逆らうほどの考えを持っているわけでもない。
「確かに何か重要な石ではあるようだが、一体どのような物なのかは、私にも」
 くつ、と面白そうにシルヴィは笑う。
「誤魔化すのなら最初から誤魔化さなくちゃ駄目ね」
 ウィスキーみたいに酔えそうな瞳が、きらりと光って問うてくる。教えてくれたらもっと酔わせてあげる、そういう風に言っている瞳だ。
「私は貴方が何も知らないであの子達の魔界行きに同意するような、ボンクラだとは思ってないの」
 あでやかに光る唇で、彼女はそう言った。
 こんな風に迫られたらたまらないよなぁ、とサイアスは思う。彼だって、例えばシルヴィが腰に当てた腕の辺りで揺れている袖がセツナを連想しさえしなければ、少し秘密を漏らしていたかも知れない。

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 猟犬

 ぞわっとした感覚が首の後ろ辺りを駆け上がってきて、慌てて伏せて頭を上げたその斜め上辺りを、青白く発光する物体がもの凄い勢いで飛んでいった。
 声を上げる間もなく、爆発音。
 なんてことやってんだあいつは。
 もうもうとたっている土煙の所為でよく見えないが、どうやら雷で出来た矢は獲物ではなく地面に着弾したらしく、先ほどより激しく土煙が舞った。その土煙の中に、四足歩行するやたら大きな何かの影が一瞬見えて、それを目聡く見つけたのか何なのか、斧を放り出した誰かさんがさっきの矢の弾道を追うように飛び出していく。
 いや待て待て待て、何で本気モードなんだ。

「おい!あくまで捕まえるんだぞ、絶対殺すなよ!」
 いくら羅震鬼で、マキシが討伐の使命をおびていて、彼等人里で悪さを働いていたとしても、命は命だ。たった一つしかないものを、容易に奪うことは出来ない。一寸の虫にも五分の魂と先人達も言っている。
 …………って、そう説明したハズなんだけど。

 遠くの方で爆炎があがる。ああ、やっぱり連れてくるんじゃなかったかも知れない。メリル達と同じように、どこか遠くに待機させておくんだった。

「皆調子に乗りすぎてるなぁ」
 いつの間にかマキシの横に並んでいたクレアが言う。
「どうやって捕まえるか、作戦まで立てたのに。困ったものだ」
 結果的には袋小路に追い込めているから良いけれど。そう言ったクレアだって、実はあの羅震鬼を追いかけたくって仕方がないのをマキシは知っている。ただ、あの3人が追い込んだ羅震鬼が逃げないよう、人里を背後にしたここに残っているだけだ。

 力こそが全てという弱肉強食の法則に生きる彼等は、獲物を前にすると、まるで猫じゃらしにじゃれつく猫のように、楽しげに獲物を追う。それこそ、我を忘れて全力で。

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2008/08/13
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