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2024/09/23

 つ、と首の後ろに薄い金属の先端が当たる。

 咄嗟に逃げそうになって、慌てて椅子に座り直した。
「動いちゃダメだよ。ケガしちゃうからね!」
 脅し文句の割には随分楽しそうに言いながら、声の主は彼の襟足にカミソリをあて直す。
 その感触を先ほどよりかは幾分落ち着いた気分で感じながら、それでも据わりが悪いような緊張するような、ぞわぞわした心地がする。
 触れた金属の切っ先は、決して冷たくも鋭くもなくて、凹凸の付いた刃先は少し押したくらいでは肌を傷つけることはない。
 そんなことはよく解っているのだけれど、首筋を人に曝して、後ろから刃物を使われるなんて、よく考えたら信じられない、と彼は思う。
 ぞり、ともしゃり、とも付かない微かな音と共に、首の後ろで慣れない感触がする。
 やはり反射的に逃げそうになった体を、無理矢理抑えつけた。
 大丈夫。大丈夫、この人は。

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 いつもは的を狙うだけのレンズスコープを、いつもとは90度違う方向に向ける。
 まあるく切り取られた世界。

 窓。
 柱。
 渡り廊下の床、コンクリート。
 人。
 人。
 腕。
 背中。
 女みたいに長い髪。

 の、揺れる、背中、肩、が振り返って。

 十字の照準に捉えられた彼は、


「…………の、ヤロ!」
 毒づいて、ゲルブは銃を下げる。
 
 撃ってみろよって顔しやがって。
 撃てないだろって顔しやがって。

 ああそうだよ撃てないよ。撃ったところでこんな玩具じゃ、お前の所にすら届かない。
 影を踏むような嫌がらせ。少しだけ物騒な冗談だ。
 けれどその奥に潜む敵意と悪意を見透かされた気がして、どうにも寒いような気分になる。
 
 なにより銃口を向けられて、それでも思惑を見透かしたように、
 に、と、薄く嗤ったあの顔が網膜に焼き付いている。

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鞄が必要なほどの荷物はありません。
命と体と心と名前。それからあなたへの想い一つ。
それで全部。
それだけです。

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2008/10/11

「ジョーカー君、綺麗だと思わないかい?」
「僕は宝石に興味がありませんから」
「私はカラットがどう、とか、カットがどう、とかそんな人が決めた価値の話が聴きたいわけではないよ。君の感想を聴きたいんだ」
「……見慣れない色のダイヤですね」
「美しいだろう?」
「……そうですね、

 あなたに似合うと思います」

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2008/08/19

「あそこが今夜の獲物がある場所だよ」
 闇に溶けるボディスーツに身を包んだクイーンは、眼下を指して言った。スーツこそ体のラインにぴっちりとあった物を着ているが、長い銀髪は流したままだ。開いたハッチの隙間から流れ込んでくる冷たい夜気は、容赦なくクイーンの銀髪を吹き散らしてゆく。
「見えるかい?」
 限りなく白に近いグレーの瞳をこちらに向けて、クイーンは問う。ジョーカーは無言で頷いた。
 二月ぶりの獲物は、業火渦巻く館から救い出されたという大粒のダイヤ。逸話の真偽はともかくとして、久し振りの怪盗らしい獲物だ。ジョーカーの調べでは、予告状の効果で警備は常の数倍は下らない。警戒するべきレベルの人数。
 思わず手に力が入ったところで、くすりと笑う気配がする。
「怖いかい?」
 戯けるように言われた言葉に、いいえとジョーカーは首を振った。幼い頃から格闘の訓練を受けていた彼にとって、いくら人数が多いとはいえ警官の数人ごときは敵ではない。
「じゃあ、緊張している?」
 それにもいいえ、と首を振りかけて、ジョーカーは考える。
「……少しだけ」
 仕方がないね、言ってクイーンは笑う。
 だって今日が怪盗クイーンのパートナージョーカー君の初仕事だものね。
 自動航行になっているトルバドゥールは、徐々に館の真上へと近づいてゆく。街のネオンが微かに届いて、二人の姿を下からぼんやりと照らし上げる。
「行けるかい?」
 風に散らされないように少し強めた声でクイーンが言って、ジョーカーはそれにもちろんです、とできるだけ落ち着いて聞こえるように答えた。
 その強がりを見抜いているのか居ないのか、おそらく見抜いているのだろうけれど、頼もしいね、とクイーンは微笑む。
「じゃあ、お先に」
 その微笑みのまま、ワイヤーを掴んだクイーンはひらりとハッチの隙間から空へと身を躍らせる。自由落下の速度で目標へと向かうその影を、ジョーカーも少し遅れて追った。

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 丁寧に髪をとかして、結い上げるのはピンク色のリボン。
 いつもより少し短い花柄のスカート。
 エナメルの靴はおろしたて。
 レースは何処もよれていない?
 ちゃんとおめかしできたなら、最後の仕上げ。
 拳銃を、ハンドバッグにしのばせて。 

 ほんとの私を、あなたは知らない。

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 こえ

 輪郭が溶ける、影が薄れる、細かな粒子が宙に散って、

「  、  」

 風に吹き散らされるように、光の中に溶けるように

 灰さえ残さず砂にもならず。



 なんてひどい人だろう。
 名前さえ教えてくれなかったから、最後の最後に呼ぶことさえ叶わなかった。

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「ジジイ、皇帝って呼ばれてたのか。随分ご大層な名前だな」
「そりゃ、俺は大怪盗だからな」
「ジジイが大怪盗だったなんて初めて知ったぜ。人間じゃねぇとは思ってたけど」
「俺だって、お前の名前を知ったのはついさっきだぜ、小僧」
「お互い様だろ」
「まあそうだ。ところで俺はトルコ語が得意でな」
「だからなんだよ」
「ついでに言うと英語も中国語もロシア語もドイツ語もスペイン語もフランス語も得意だ。世界中で会話できねぇ国はねぇ」
「ただの自慢じゃねぇか!」
「小僧の名前はヤウズってぇのか」
「…………それが?」
「似合わねぇな」
「……ジジイ、喧嘩売ってんのか」
「ふん。喧嘩ってのは、実力や立場が対等な奴がやるもんだぜ。――お前みたいな甘ちゃんには、似合わない意味だなって言ってるのさ」

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2008/06/25

 叫べ本能!軋め心よ。

(もっと血を!ぬめる熱さを!命を略奪する瞬間の、脳の痺れを、闘争を!)
(壊したい?殺したい?怖い?寂しい?殺したくない?)

 殺さなければ殺される!けれど被る熱さと裏腹に、胸腔の奥が冷えるのは何故?
 ホントのココロは、さあどっち。

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“明かりを消したら遊戯(ゲーム)の始まり。”

 綺麗に視覚だけ絶たれた世界で、呼び起こされるのは生き残る本能。
 闇の中には何がいる?
 敵?(多分、そう)
 味方?(そんなものは居ない)
 それとも自分?(!)

 加速する心臓、沈んでゆく吐息。上がるのは打撃のトーンだけ。

 誰が居る?何が居る?決して見えない闇の中。

 月明かりでも、電球でも良い。何ならセキュリティランプでも。
 どうかどうか、何か明かりを。

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